酸化ストレスは、細胞内における活性酸素種(ROS)の生成と消去のバランスが崩れ、ROSが過剰産生することによって生じる。ROSによって酸化障害された細胞は、機能不全を引き起こし、様々な疾患の発症・悪化に関与すると考えられている。生体内の90%以上のROSは、ミトコンドリアの電子伝達系において、酸化的リン酸化によるATP産生過程で生じる。ミトコンドリアで生成されるROSの中でも・OHは酸化力が最も強力である。このことから、・OHがミトコンドリアの酸化障害に多大な影響を及ぼすと考えられるが、未だに不明瞭な点が多い。本研究では、ミトコンドリア・OHを選択的に消去する抗酸化剤を開発し、これを種々の酸化ストレス関連疾患モデルマウスに用いることにより、・OHによるミトコンドリア酸化障害が疾患に及ぼす影響を明らかにすることを目的にしている。 これまでに、我々が独自に開発したミトコンドリア・OH標的抗酸化剤をミトコンドリアROS誘導細胞に用い、ミトコンドリア・OHが酸化ストレスに及ぼす影響を検討した。その結果、ミトコンドリア・OHはミトコンドリアの酸化損傷に中心的な役割を担うことが明らかになった。さらに、ミトコンドリア・OHによる酸化が起きると、ミトコンドリアの融合を抑制し断片化が誘導されることによって、これが引き金になりマイトファジーが引き起こされることが明らかになった。さらに、ミトコンドリアROSを誘導した酸化ストレス可視化Tgマウスを用いた解析から、ミトコンドリア・OHが酸化ストレス誘導の根源であることが明らかになった。現在、種々の酸化ストレス疾患モデルマウスを用いて、ミトコンドリア・OHが疾患に及ぼす影響について解析を行っている。これとは別に、最近、細胞質・OH標的抗酸化剤も開発した。これらの抗酸化剤を用いることによって、・OHによる細胞内酸化損傷部位の違いと酸化ストレス関連疾患の詳細な発症・悪化機序の解明を目指している。
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