研究課題/領域番号 |
24700442
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
島貫 碧 公益財団法人東京都医学総合研究所, 基盤技術研究センター, 研究員 (20593643)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | ミトコンドリア / ミトコンドリアDNA / コピー数 / 代謝回転 |
研究概要 |
ミトコンドリアDNA(mtDNA)は日常的に代謝回転しており、それは細胞周期独立的に行われているが、今日までその分子機序については詳細には理解されていない。mtDNAは体細胞あたり1000-10000コピーの範囲で存在しており、この量は、遺伝および生理的な環境要因によって厳密に制御されている。当該年度では、mtDNAの量の制御に関する分子メカニズムの理解を深めるため、まず、異なる代謝特性をもつマウスの多様な組織におけるmtDNA量をリアルタイム定量PCR法により解析した。その結果、各組織のエネルギー要求性を反映していることを示唆するように、mtDNA量は組織間で有意にばらつきが見られた。mtDNAの量の制御はミトコンドリアバイオジェネシスのマスターレギュレーターであるPGC-1αを起点とするカスケードに従って進行している。そこで、Pgc-1αおよび、その下流の遺伝子群の発現レベルを組織間で比較した。この結果、全ての遺伝子において組織間で有意にばらつきがみられ、一部の遺伝子の発現量においては過去に報告された組織におけるmtDNAの半減期の速度の差との相関を示唆する結果が得られた。つまり半減期の速度が早い組織は複製の活性が高い結果となり、一部の組織ではmtDNAが高い代謝回転率をもつことが示唆された。また、上記のmtDNA複製関連因子はエネルギー代謝にも関与しており、この活性は哺乳類における生理学的反応の概日リズムを支配している。このことから、mtDNA量の1日の時間変化に伴った変化に注目し解析を行った。その結果、特定組織のmtDNA量は日内変動を示し、これには上記の複製因子の制御が一部関与していることが示唆された。さらに、栄養条件の変化によるmtDNA量への影響を検討した結果、一部の組織において著しい変化がみられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではmtDNA代謝回転機構へのオートファジーの関与を解明することを目的とし、当該年度ではそれを支持する結果を得る事ができた。まず、オートファジーは絶食により活性化することが理解されていることから、絶食時のマウス組織(大脳皮質、小脳、心筋(左心室)、胸腺、肝臓、腎臓、脾臓、膵臓、ヒラメ筋、精巣、尾、長指伸筋、等)におけるmtDNA量をリアルタイム定量PCR法およびΔΔCt法を用いて測定することを目的とした。本研究で用いるΔΔCt法とは、PCR反応において、標的遺伝子(ミトコンドリア)の増幅量に対する対照となる遺伝子(核)の増幅量の比で、摂食マウスに対する絶食マウスのmtDNA量を算出させることができる方法である。しかし、ΔΔCt法が成立するためには、核、ミトコンドリアの両DNAを増幅させるプライマーの増幅効率がほぼ等しいことが条件となるため、まず上記を満たす条件の検討を行った。さらに、この条件で、絶食時のマウス組織mtDNA量を測定した結果、心筋、肝臓、腎臓、膵臓等で著しくmtDNA量の減少が示された。さらに、このときのmtDNAの複製関連遺伝子群の発現量をRT-PCR法およびΔΔCt法で測定した結果、多くの組織でその発現量が上昇していた。以上の結果は、絶食時にmtDNAの複製活性が上昇するにも関わらずmtDNA量が減少したことを示しており、栄養条件の変化によるmtDNA量の減少は複製活性の低下ではなく、分解による減少であることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
mtDNAの分解因子が“オートファジー(AP)”であることを支持するデータのさらなる取得を目的とし、絶食マウスの各組織におけるmtDNA分解とAPとの関連性を検討する。具体的には、絶食時のAPとミトコンドリアを形態学的に同時検出するため、AP膜特異的に存在するLC3にGFPを標識したTgマウスおよび、ミトコンドリアにDsRed2を標識したトランスジェニック(Tg)マウスの交雑系統であるGFP-LC3×mtDsRed2 double Tgを用いる。凍結切片用組織サンプルの採取は、mtDNA量測定条件と同じ絶食条件で行い、共焦点レーザー顕微鏡により、AP膜に隔離されたミトコンドリアを探索し、2D像を取得する。さらに連続断面像(Zシリーズ)を撮影し、3D像を取得する。次にmtDNA量の変化と飢餓誘導型APの活性の関連性を証明するために、肝特異的AP欠損マウスを作製する。そこでAP必須遺伝子であるAtg7の条件的ノックアウト(KO)マウスであるAtg7Flox/Floxマウスとインターフェロンγ依存的にCreリコンビナーゼを発現するMx-Cre Tgマウスとを交配して、Atg7Flox/Flox:Mx-Creマウスを作製する。このマウスにインターフェロン誘導剤であるpolyinosinic acid-polycytidylic acid (pIpC)を腹腔内に注射すると、肝臓におけるCreリコンビナーゼが発現し、その作用によって、loxPで挟み込んだAtg7のエキソン14が喪失する。pIpCの投与条件の決定には、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法およびウエスタンブロッティング法を用いる。さらに、上記条件で作製したAP欠損マウスにおける飢餓誘導の結果、肝由来mtDNA量に変化がないことを確認する。以上により、mtDNA量の減少と飢餓誘導型APの関連性を証明する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究ではトランスジェニック(Tg)マウスを用いた実験実施を予定している。このマウスの系統維持のために、体外受精を介した繁殖や凍結胚作製を実施するため、過排卵処理や体外培養および凍結保存用の試薬・消耗品費を予算に計上した。また、試薬・理化学用品については、mtDNA定量解析に用いるDNA抽出関連試薬、リアルタイムPCR関連試薬・消耗品(プレート等)費、絶食時のミトコンドリアおよびオートファジーの同時検出のための凍結組織サンプル調整に用いる固定剤や封入剤等試薬、消耗品(スライドガラス、カバーガラス等)費、オートファジー関連遺伝子欠損マウスを作製する際に使用するインターフェロン誘導剤、サザンブロッティング、ウェスタンブロッティング関連試薬・消耗品(メンブレン等)費に予算配分する予定とした。さらに研究成果公表のために、国内外の学会に参加する予定でいる。この際の旅費および参加費、ポスター作成費を予算計上した。また国際誌への論文投稿の際、専門機関における英文校閲費、さらに学術雑誌の投稿料、別刷代を予算計上した。
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