研究課題/領域番号 |
24700448
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
菅原 路子 千葉大学, 工学(系)研究科(研究院), 特任准教授 (30323041)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | バイオメカニクス / 細胞 / アクチンダイナミクス |
研究概要 |
本研究では,アクチンダイナミクスの動的再構築に関する数値解析と,細胞運動における突出端形成の定量的計測を融合させることにより,非筋細胞の運動駆動源である「突出」形成メカニズムを解明することを目指す. 研究初年度である平成24年度は,物質・材料研究機構 中西淳独立研究者から提供の光応答性細胞培養基板を用い,細胞運動が統一的に制御された状況において,形状の時空間変化を観察し定量計測することを試みた.2008年から2009年にかけて,この光応答性培養基版を用いた統一的細胞運動制御実験の実験系を一度立ち上げ,その成果を論文に発表しており,今回も同様の手法を用いる予定で実験を開始した.しかし当時から実験室を移動したこと(理研から千葉大),また用いる光応答性培養基板が改良された新しい基板となったこともあり,再度実験系の立ち上げから行うこととなった.その結果,紫外光の一次照射により初期細胞形状を統一するためのパターニングが可能であることまでは確認できたものの,実際の細胞形状の統一実験,さらに紫外光の二次照射による細胞運動の統一的制御までには至らなかった. 一方,細胞内に存在すると予想されるタンパク質の化学反応を考慮した,アクチンダイナミクスの動的再構築に関する数値解析については,これまで構築してきたモデルにはじめてArp2/3複合体によるアクチンフィラメントの分岐機構を導入した.これにより,予想されるすべてのタンパク質の反応を考慮したモデルが完成した.現在,モデル構築およびタンパク質の化学反応に基づくアクチンネットワーク形成像の特徴に関して,論文投稿準備中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの達成度は,実験面においてやや遅れているものの,数値解析面においては順調に達成されている状況である. 物質・材料研究機構の中西淳研究者から提供された光応答性培養基板は,以前と比較しその性能が改良されたものであるが,一方で本実験室にて2009年までに構築した実験系をそのまま利用できるかについては不明点があり,その確認を兼ねた実験系の立ち上げから再度開始することとなった.実験への慣れに時間がかかったこと,紫外光照射に用いる光学系の一部が紫外光による劣化により機能しなかったことなどにより,紫外光の一次照射により初期細胞形状を統一するためのパターニングが可能であることを確認するまでに時間がかかった. 一方,数値解析モデルの構築については,予定どおりこれまでのモデルにArp2/3複合体によるアクチンフィラメントの分岐機構を組み込むことができた.これにより,細胞運動に伴い「突出」部位において形成されるアクチンダイナミクスに含まれると予想されるすべてのタンパク質の反応を考慮したモデルが完成した.
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度に引き続き,まずは光応答性培養基板を用い,紫外光の一次照射による細胞形状の統一的制御,および二次照射による細胞運動の統一的制御を可能とする実験系構築を急ぐ.構築でき次第,細胞運動が統一的に制御された状況において,その形状の時空間変化を観察し定量計測する.一方,数値解析の面では,平成24年度に構築したモデルを大規模な場にも適応できるよう,モデルの拡張を行い,濃度勾配が存在する細胞膜近傍の変形が解析可能となるモデルを構築する.そして,実験による細胞膜変形の定量計測結果を,シミュレーションモデルによる膜変形解析結果と比較することにより,マクロな細胞膜の変形とミクロな細胞内部のタンパク質ダイナミクスの関連を明らかにし,細胞運動の突出メカニズムの解明を目指す.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は,実験および数値解析に必要な消耗品,および実験補助者を雇用することによる謝金,さらには研究成果発表のための旅費等に研究費を使用する予定である.
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