本研究では,アクチンダイナミクスの動的再構築に関する数値解析と,細胞運動における突出端形成の定量的計測を融合させることにより,非筋細胞の運動駆動源である「突出」形成メカニズムを解明することを目指す.平成25年度は,物質・材料研究機構 中西淳独立研究者から提供の光応答性細胞培養基板を用い,統一的細胞運動制御実験を実施した.細胞が運動を開始する際,その形状極性,すなわち形状の非対称性は,運動方向を決める重要な要因の一つであることが知られている.特に,核―中心体ベクトルの向きは形状極性の指標であり,これもまた運動方向の決定要因の一つと考えられている.そこで,細胞の形状極性,あるいは核―中心体ベクトルの向きのどちらが,細胞運動を開始する際の突出形成により重要であるかを明らかにすることを試みた. 実験では,紫外光の一次照射により初期細胞形状を統一するためのパターニングを行った後,細胞を播種し,その形状を三角形に制約した.さらに,核―中心体ベクトルが三角形の底辺側を向く場合と頂点側を向く場合のそれぞれにおいて,紫外光の二次照射により,細胞運動が可能となる基板の接着領域を拡張した.そして,細胞運動に伴う核および中心体の位置を観察した. 二次照射後のタイムラプス観察の結果,三角形に形状を制約された細胞において,底辺側に運動方向を拡張した場合,核の移動を伴い大きく運動するのに対し,頂点側に拡張した場合は運動がみられなかった.また,大きく運動を開始した底辺側拡張だけに着目した場合,核―中心体ベクトルの向きの違いにより,細胞の運動性に違いが見られた.以上より本研究結果,細胞が運動を開始する突出形成の際に,その方向を決める主因は細胞の形状極性であることが明らかとなった.
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