研究課題/領域番号 |
24700453
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
北村 成史 京都大学, 健康長寿社会の総合医療開発ユニット, 特定助教 (50624912)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 膵島 / DNA / SPIO / MRI |
研究概要 |
膵島細胞の表面をラベリングするためのssDNA修飾鉄ナノ粒子の合成を行った。鉄ナノ粒子表面をssDNAで修飾するにあたり、当初はシランカップリング剤を用いた手法を用い、ssDNA修飾するまでは成功したが、その水中安定性や、導入量が不十分であった。この問題を解決するために、鉄ナノ粒子表面にカルボン酸が強く結合する事実に注目し、表面をマレイン酸で修飾、その後マイケル付加反応によってssDNAを結合する方法を開発した。本手法は反応の簡便性、確実性に優れ、さらに高い導入量と水中安定性を示した。また、汎用性が高く、今後鉄ナノ粒子表面を有機修飾するにあたり、様々な化合物に適用可能である。このようにして得られた鉄ナノ粒子を用いて膵島細胞のラベリングを行った。膵島のラベリングに関しては、単純に膵島表面にラベリングする方法と、一度膵島を単個細胞にまで分解したのちにラベリングし、再凝集させる方法の2種類について検討した。前者は、短時間で簡便にラベリングすることが可能となったが、鉄ナノ粒子の導入量という点でやや不十分であり、MRIで検出するのにやや長時間を要した。一方、後者の手法では、膵島内部にまで鉄ナノ粒子を導入可能となり、MRIで高い検出感度を示した。また、これらのサンプルについて超薄切片を作製し、TEM観察を行い、ラベリングされた鉄ナノ粒子の導入の様子の観察も行った。TEM観察の結果から、鉄ナノ粒子は最初細胞表面に結合され、その後エンドサイトーシスによって細胞内に取り込まれることが明らかとなった。再凝集したサンプルにおいては、膵島の内部の細胞にまで多くの鉄ナノ粒子が取り込まれている様子が確認され、MRIの結果からの予測を裏付ける結果が得られた。また、鉄ナノ粒子でラベリングされた膵島はその後数週間の培養においても特に機能低下などの影響は見られず、ラベリングの影響が軽微であることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の項でも述べたとおり、ssDNA修飾鉄ナノ粒子の合成はすでに達成されており、これらの鉄ナノ粒子を用いた細胞表面の修飾も当初予想されたとおりの良い結果が得られている。得られた結果は、膵島のMRIでの可視化という目的を達成するのに十分であることもすでに確認されている。また、膵島細胞への影響の点でも、条件検討の結果、かなりの高濃度条件にさらしても、細胞機能への影響は軽微であることがわかった。以上のことからも、申請時に目指した結果は十分にクリアしていると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの検討の結果、膵島のラベリングがMRIで検出するのに十分であることが確認できたので、今後は膵島がダメージを受けた時、または死滅した場合に膵島のモルフォロジー変化や分解の撮像について検討する。分解が進行すると表面に結合していたSPIOの拡散が起こって局所濃度が減少すると考えられる。局所濃度が下がれば緩和促進効果も弱まり、造影能は低下する。このように、細胞が死滅して分解した場合に、MR画像でのコントラストの減少から検出可能であると考えられる。実際にどの程度の感度で膵島細胞の死滅の過程が検出可能かについて詳細に検討を行う。さらに、種々の顕微鏡観察と照らし合わせ、時間の経過と共に生存膵島が減少する過程を正確に評価する。以上の評価検討によってMRIによる膵島細胞の動向の観測手法を確立させる。in vitroでの観測手法を確立した後には、実際に生体内に移植した膵島の観測実験を行い、画像の評価方法の検討を行う。マウスの肝臓に門脈注射によってSPIO修飾膵島の移植を行い、MRIで移植膵島の動向を調査する。得られたMR画像から肝臓内での膵島の位置情報を確認するとともに、細かく時間を区切って撮像し、成着の可否、移植膵島の量に対する成着率の評価などの方法について検討を行う。加えて、MRIの利点を生かして移植膵島の動向について中長期的に継続した観察を行う。得られたMR画像から直接的に生存率を算出し、その値の変化を記録して評価検討する。また、レシピエントの血糖値の変化を記録し、MR画像から算出した膵島の生存率と比較して、本手法の妥当性を確かめる。
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次年度の研究費の使用計画 |
予定している実験では、多くの実験動物の購入費用や飼育費用が必要なので、計上している。また、膵島観察に用いる各種試薬や培養に用いる消耗品費についても計上している。電子顕微鏡観察や凍結切片の作製の依頼費なども必要となる。得られた結果を積極的に配信していくために、複数の学会での成果発表を計画している。さらに、海外の学会での発表も計画しており、それらの予算を計上した。
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