研究課題
アクチン繊維は細胞内において細胞の物理的・生物学的制御因子として重要な役割を担っている。本研究は、平滑筋細胞の分化過程におけるアクチン繊維の物理環境を明らかにすると共に、この物理環境が平滑筋細胞の分化制御にどのように作用するか検討することを目的とした。特にアクチン繊維に結合する平滑筋細胞転写因子CRP2が平滑筋細胞内の物理環境形成にどのように寄与するかについて明らかにすることを目的とした。まず、CRP2のアクチン繊維への構造的作用について検討を行った。CRP2を大腸菌にて発現させ、そこからリコンビナントCRP2タンパク質の抽出・精製を行い実験に用いた。リコンビナントCRP2がin vitro環境下で再構成アクチン繊維と結合することを確認し、CRP2がアクチン繊維に結合することでアクチン繊維の構造がどのように変化するかX線小角散乱法にて検討した。その結果、CRP2の導入量依存的にアクチン繊維の断面慣性半径が増大することが確認できた。CRP2がアクチン繊維に結合することで、みかけの繊維経が増大したことに起因すると考えられる。また、高濃度溶液中におけるCRP2とアクチン繊維の解離定数は2.0 x 10^-5 M程度と見積もられた。さらにアクチン繊維の見かけの繊維系の増大は透過型電子顕微鏡観察によっても確認することが出来た。一方で、CRP2が平滑筋細胞内で発現することで平滑筋細胞内の物理環境がどのように変化するかについて検討を行った。平滑筋細胞株A7r5にCRP2を発現させ、細胞の機械特性を原子間力顕微鏡を用いて測定した。その結果、A7r5細胞にCRP2を発現させることで細胞の機械特性は大きく増大した。CRP2はアクチン繊維に局在しており、CRP2がアクチン繊維に直接あるいは間接的に働きかけることで細胞内の力学環境が大きく変化したと考えられる。
2: おおむね順調に進展している
本研究は平滑筋細胞の分化過程におけるアクチン繊維構造体の物理特性解析を目指して研究を行なっている。今年度は既に平滑筋細胞分化に関与することが知られているCRP2タンパク質を用いて、それらがアクチン繊維の構造にどのような影響を及ぼすかについて明らかにすると共に、CRP2が平滑筋細胞内の物理環境にどのように働きかけるかについて明らかにした。こうした変化はCRP2がアクチン繊維に直接・間接的に働きかけることによって生じると考えられる。従って、平滑筋細胞内でのアクチン繊維構造体の様子の推察が可能なところまで進んでおり、概ね順調に研究が進展していると判断した。
H25年度は、CRP2のアクチン繊維に対する作用を生化学・生物物理学・細胞生物学的手法により明らかにすると共に、平滑筋細胞分化過程におけるアクチン繊維の作り出す物理環境を細胞生物学・生物物理学的手法によって明らかにすることを目指す。
H25年度では、実験消耗品を中心とした物品費として1,000千円。共同研究・研究報告のための旅費として200千円。論文出版等のその他として100千円の使用を見込んでいる。
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