アクチン繊維は細胞内において細胞の物理的・生物学的制御因子として重要な役割を担っている。本研究は、平滑筋細胞の分化過程におけるアクチン繊維の物理環境を明らかにすると共に、この物理環境が平滑筋細胞の分化制御にどのように作用するか検討することを目的とした。特にアクチン繊維に結合する平滑筋細胞転写因子CRP2が平滑筋細胞内の物理環境形成にどのように寄与するかについて明らかにすることを目的とした。 今年度はリコンビナントで作成したCRP2タンパク質がアクチン繊維の物性にどのような影響を及ぼすのかについて検討を行った。CRP2と反応させたアクチン繊維を共焦点顕微鏡によって観察し、その持続長を計測した。アクチン繊維の持続長はCRP2が結合することで上昇することが見出された。さらにCRP2が結合することでアクチン繊維形成による溶液の粘性が上昇するか検討したが、明確な変化は見られなかった。このことから、CRP2はアクチン繊維の物性は変化させるが、繊維の枝分かれといったマクロの構造には大きく作用しないと考えられた。そこで、CRP2が結合することでアクチン繊維のダイナミクスは変化するか検討したところ、CRP2が結合することでアクチン繊維の脱重合が生じにくくなることが明らかとなった。 研究期間全体では、溶液中におけるCRP2の構造を決定し、さらにCRP2がアクチン繊維に結合することでアクチン繊維の繊維径を増大させることを明らかにした。繊維径が増大したアクチン繊維は持続長が長くなっており、さらに繊維の脱重合も抑制されていた。こうしたアクチン繊維に対するCRP2の物理的・化学的作用により、CRP2を発現した平滑筋細胞の機械特性が上昇したものと考えられる。以上本研究によって、CRP2が平滑筋細胞の物理環境を制御することが明らかとなった。
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