研究課題
若手研究(B)
多くの疾患はタンパク質の活性異常による代謝制御の乱れで生じる場合が多いと考えられているため、代謝物総体を捉えるメタボロミクスは予期せぬ大発見をもたらす可能性を秘めている。疎水性代謝物である脂質は、多くの分子種が存在し、様々な重要な生理機能を果たしているが、個々の分子種とがんの発症機構との関連性はまだよく分かっていない。そこで本研究では、質量分析計を用いたマルチターゲット脂質プリファイリング法により、大腸がんの発症により変動する脂質分子種を見出すことを目的とする。平成24年度は、マルチターゲット脂質プロファイリングを実施するために、リゾリン脂質 (LPC, LPE)、リン脂質 (PC, PE)、遊離脂肪酸などを測定対象とした超高速液体クロマトグラフィー/質量分析 (UHPLC/MS/MS) 分析システムを開発した。続いて、確立した分析手法において堅牢性が担保されるかどうかを、生体組織や血清サンプルを用いて検証した。検証試験には、野生型マウスから採取した大腸組織、血漿、ならびに、ヒト血清を使用した。その結果、マウス大腸組織で253種、血清中で226種、ヒト血清から218種の脂質が同定され、定量性の精度を示すバラツキも良好な値(RSD15%以内)を示した。ことから、当該分析手法は、動物組織や臨床検体に適応可能な堅牢性の高い脂質プロファイリングであることが示された。さらに、炎症性腸疾患モデルであるIL-10遺伝子欠損マウスを用いて、腸炎発症における脂質分子種のプロファイルについて検討した。その結果、大腸組織と血漿中で共通して有意に変動した代謝物は15種類あり、その中には、DHA (22:6) やアシル基にDHAをもつPCなど、DHA関連代謝物が多く存在した。このことは、IL-10の欠損に伴う腸炎の発症とその慢性化に、DHA代謝が強く関与していることを示唆している。
2: おおむね順調に進展している
平成24年度では、マルチターゲット脂質プロファイリング分析手法を確立し、マウス、あるいは、ヒト試料に適応可能であることを示した。さらに、炎症性腸疾患マウスモデルである、IL-10遺伝子欠損マウスを用いて、大腸、あるいは、血漿中の脂質プロファイリングも終了した。長期にわたる炎症が大腸がん発症を誘導することが知られていることから、本プロファイリング結果は、大腸がんの発症に強く関与する、代謝物、あるいは、代謝経路を特的できる可能性を示唆している。特に、DHA関連代謝物が有意に変動したことから、今後の研究において、最も着目すべき代謝経路であると考えている。以上のことから、実験計画の進歩状況としては、「おおむね順調に進展している」と判断している。
平成25年度では、平成24年度に完了したIL-10遺伝子欠損マウスのマルチターゲット脂質プロファイリング分析データをより詳細に解析し、さらに、「大腸発がんモデルAPCmin/+マウスを用いたマルチターゲット脂質プロファイリング」を実施する。さらに、平成24年度の結果を踏まえ、DHAなどの不飽和脂肪酸の代謝物、すなわち、脂質メディエーターの解析も平行して実施する予定である。モデル実験結果を比較解析していくことで、慢性炎症から大腸がんの発症に関与する代謝物の探索を実施する。
平成24年度から繰り越した研究費においては、「大腸発がんモデルAPCmin/+マウスを用いたマルチターゲット脂質プロファイリング」に関する基礎研究を実施するための分析機器消耗品購入に使用する。さらに、平成25年度では、平成24年度の結果を踏まえ、新たに、脂質メディエーターの分析系構築を予定している。脂質メディエーターの標準試薬は多種多様存在し、そして、高価なため、この購入に平成25年度の予算を使用する予定にしている。また、まとまったデータは、学会発表や論文発表していく予定にしており、それに関わる諸経費も、平成25年度の予算を使用する。
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すべて 雑誌論文 (11件) (うち査読あり 11件) 学会発表 (11件) 備考 (1件)
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