多くの大腸癌における発癌形式は、多段階発がんであることが知られている。すなわち、様々な遺伝子異常の蓄積によって正常組織からがん組織へ移行すると考えられており、大腸がんの場合、APC遺伝子・K-ras遺伝子・DCC遺伝子・P53等の遺伝子異常が同定されている。APCタンパクは通常細胞質内でβ-cateninと結合する事によってautophagosomeにより自己消化されます。その結果wnt signalを負に制御していると考えられています。しかし、APC遺伝子変異によってβ-cateninが細胞質内で過剰に蓄積され、恒常的に核内移行することによりWnt pathway が活性化される。その結果、wnt pathway標的タンパクが過剰に発現し異常な細胞増殖に繋がると考えられている。従って、APC遺伝子異常は大腸がんの発がんにおいて重要な働きをしていると考えられている。そこで、平成26年度は、大腸発がんモデルAPCmin/+マウスを用いたマルチターゲット脂質プロファイリングを実施することで、APC遺伝子変異が脂質代謝に与える影響を詳細に調べた。野生型マウスとAPCmin/+マウスの血清脂質プロファイリングを行った結果、大腸がんの発症に伴い、数種のリン脂質が統計的に有意に変動した。そこで、次に、大腸がん患者血清のリピドーム解析を実施した。その結果、健常者と比べて数種の脂質分子種において有意な変動を示した。最終的にAPCmin/+マウス血清の結果、および、大腸がん患者血清の結果を比較したところ、いくつかの脂質分子において共通して変動していることが分かり、これらの脂質分子は信頼性の高い大腸がんバイオマーカー候補に成ると考えられる。
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