研究課題/領域番号 |
24700457
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
平野 靖 山口大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (90324459)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 肺葉切除術 / 気管支領域抽出 / 胸部CT像 / 呼吸シミュレーション |
研究概要 |
平成24年度には,肺葉切除術を施行する前のCT像を用いて,肺葉領域および縦隔領域をFEM(Finite Element Method,有限要素法)によって変形するシミュレーション手法の開発を行った.これは本研究課題の中核的な要素技術の1つである.また,気管支領域を用いた呼吸シミュレーションにおいては,これまで気流の速度が一定であった(定常状態)ものを,sin関数にしたがって変化するようにした.これによって,実際の呼吸の状態に近い状況を作ることが可能となった.さらに,変形シミュレーションおよび呼吸シミュレーションの両方で用いられる気管支領域を,従来よりも高精度に抽出する手法の開発を行った.これにより,仮想的な肺葉切除術において,末梢気管支を忠実に変形することが可能になるとともに,末梢気管支の形状を考慮した気流をシミュレーションすることが可能になることにより,より高精細な呼吸シミュレーションが可能になる. また,汎用的な並列プログラミングライブラリであるMPI(Message Passing Interface)とGPU(Graphics Processing Unit)を使用する並列画像処理プログラムを簡便に作成できる環境の構築を行った.MPIやGPUを用いた並列プログラムを作成するには,MPIやGPU特有のプログラミング技術を習得する必要があるほか,他のCPU等とのデータの送受信を意識しなくてはならない.これらは画像処理のためのプログラミングを作成する上では,本来は不必要な事項である.構築した並列プログラミング支援環境を用いることにより,上記の事項はプログラマから隠蔽され,画像処理プログラムの作成に専念できるようになるため,プログラム作成における効率の向上が期待できる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度には,おおむね研究実施計画に記載した研究を実施した.平成24年度に実施した研究は,基盤的な研究と応用的な研究に分けることができる.基盤的な研究としては,並列プログラミング作成支援環境の構築や気管支領域抽出手法の開発などが挙げられ,主に本研究課題を達成するための基礎となる.これにより,次年度以降の研究が円滑に進められるものと期待できる.応用的な研究としては,変形シミュレーション手法の開発と,呼吸シミュレーション手法の改善が挙げられる.これらは現状では試作段階であるが,次年度以降の改善とパラメータの最適化を行うことにより,最終年度までに計算目的を達成することが可能であると見込まれる.
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度に行った呼吸シミュレーションにおいて,気流の向きおよび速度をsin関数にしたがって変化させられるようにした.しかし,実際の呼吸では,気流の変化の他に,呼吸による気管支の変形が生じる.そこで,新たに4次元胸部CT像を入手し,呼吸による気管支の変形をモデル化し,これを個々の患者に適用する.さらに,呼吸シミュレーション時に,各時相に対応した気管支の形状と気流の向き・速度を与えることにより,実際の呼吸を高精度に再現するための基礎研究を行う.また,現在行っている呼吸シミュレーションでは,気道の断面における流速を制御することによって気管支内の気流をシミュレートしている.これを現実の呼吸メカニズムに合わせ,気道断面における気圧を制御することによる呼吸シミュレーションを検討する.肺葉・縦隔の変形シミュレーションにおいては,平成24年度にバネモデルによる方法とFEMによる方法の構築を行った.平成25年度以降にはそれぞれの手法のためのパラメータの最適化を行うとともに,計算時間および精度の観点から両者を比較する.また,新たに約20症例の提供を受けたので,これらに対する適用により,提案手法の妥当性を確認する. 平成24年度に新たに共同研究を始めた臨床医との情報交換の結果,近年では肺葉切除術後に呼吸機能が低下し場合にステント挿入による呼吸機能の改善が行われていないことが明らかになった.そこで,平成25年度以降は,当該共同研究者と連携をとりながら臨床現場に即した手法の開発を進める.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度末に論文の掲載料が決定したため,平成24年度の支出予定額と実支出額との間に差異が生じた.平成25年度以降の支出予定額と平成24年度に生じた差異とを合わせて研究成果の公開および発表のための論文掲載料および旅費等として使用するほか,流体力学を専門とする研究者および放射線診断・治療を専門とする臨床医との研究打ち合わせによる情報収集のための旅費として使用する.また,変形シミュレーションおよび呼吸シミュレーションのためのパラメータ調整および大量の症例の処理のためには,現有の計算資源では不足することが予測される.そこで,新たな計算機を購入するための資金とするとともに,共同研究者が所属する大学で運用するスーパーコンピュータを利用するための計算機使用料として使用する.
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