研究課題/領域番号 |
24700459
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
中楯 浩康 首都大学東京, システムデザイン学部, 助教 (10514987)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 頭部外傷 / 脳神経細胞 / 軸索損傷 / 衝撃ひずみ / 微細加工 / 軸索伸長方向制御 / 神経活動電位 / β-アミロイド前駆体タンパク質 |
研究概要 |
頭部外傷による脳組織への衝撃ひずみは,脳神経細胞間を連絡する軸索に損傷を与え,神経情報伝達を阻害する.本研究では,衝撃ひずみ負荷により誘発された軸索損傷と神経細胞間の情報伝達機能の関係を明らかにする.複数の神経細胞を対象に,細胞体の配置と軸索の伸長方向を制御することで,1細胞単位での神経ネットワークを形成し,衝撃ひずみ負荷により損傷した軸索が,神経細胞間を機能的に連絡しているかどうかを定量的に解析する. 本年度は,微細加工技術を用いた軸索伸長方向制御と衝撃負荷方向の違いによる軸索損傷評価を実施した.神経細胞を播種するための培養穴(φ6mm)と細胞体から伸長する軸索を直線的に配向させるためのマイクロトンネル(幅50μm,高さ50μm,長さ2mm×20本)を加工したPDMS(Polydimethylsiloxane)を用い,0°,45°,90°に配向させた軸索に対して単軸引張(ひずみ22%,ひずみ速度27/s)を負荷した.引張前,引張5分後から24時間後まで同一の細胞を観察し,軸索の断裂,膨張,退縮,消失といった形態変化を評価した.引張後の断裂は,引張方向に対して0°(平行)もしくは90°(垂直)に配向させた軸索に多く観察された.しかし,90°に配向させた軸索は,引張後の膨張が1時間以内の一過性の増加だったのに対し,0°に配向させた軸索は引張24時間後まで膨張数が増加した.これらの結果より,軸索の長軸方向と円周方向で神経損傷の異方性があることが示唆された.また,軸索の退縮,消失に関しては全ての条件において同程度であったが,その理由として,本実験において神経細胞に負荷したひずみの大きさと速度が,軸索の断裂や膨張といった1次損傷は引き起こすが,軸索の退縮や消失といった2次損傷には至らない軸索損傷条件だったことが考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り,本年度は,微細加工技術を用いた軸索伸長方向制御と衝撃負荷方向の違いによる軸索損傷評価を実施した.フォトリソグラフィ技術やモールディング技術を習得し,高精度で再現性の高いマイクロトンネルを作成することができるようになった.また,マイクロトンネル内へ軸索が伸長する割合や,軸索伸長後のマイクロトンネル剥離による細胞生存率といった基礎検討も実施済みであり,本実験手法の再現性,有効性についても十分に検討した.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,衝撃ひずみによる軸索損傷と情報伝達機能の関係を明らかにする.マイクロトンネルを用いてネットワーク形成させたラット大脳皮質神経細胞に単軸引張を負荷し,ひずみの大きさ,速度,作用方向の違いと軸索の損傷程度について検討する.軸索損傷の評価には,顕微鏡観察による軸索の形態変化に加え,免疫染色法によるβ-アミロイド前駆体タンパク質(β-APP)の観察や電気生理学的手法による神経活動電位の計測を実施する.β-APPは頭部外傷後の軸索損傷マーカーとして知られている.また,神経細胞内の活動電位の移動(伝導)や神経細胞間の活動電位の移動(伝達)を細胞外電位記録により評価する.
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度は,細胞培養が効率良く進んだため,脳神経細胞や培養試薬の購入回数が当初計画より少なくなり,直接経費の未使用額が発生した.次年度は,脳神経細胞や培養試薬,軸索やアミロイド前駆体タンパク質を可視化するための抗体や蛍光試薬,培養チャンバーやマイクロトンネルを作成するためのPDMSに使用する.また神経活動電位計測に必要なアンプや電極プローブに使用する.
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