研究課題/領域番号 |
24700466
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
田地川 勉 関西大学, システム理工学部, 講師 (80351500)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 赤血球 / 変形能 / マイクロチャンネル法 / 時定数 / 糖尿病 / スクリーニング |
研究概要 |
本研究では,赤血球変形能の評価を目的として,赤血球が毛細血管サイズのマイクロチャンネルを通過した後の形状回復過程を一般的な粘弾性モデルである標準線形固形でモデル化し,形状回復時定数を測定した.これまでの研究の結果で,人為的に膜硬さとヘモグロビン濃度を変えた赤血球の形状回復時定数が,モデルで予測された傾向と一致することが分かっている.そこで様々な血液サンプルの赤血球に対して,血液検査(平均赤血球容積(MCV),平均赤血球血色素濃度(MCHC),血糖値,ヘモグロビンA1c(HbA1c))を行うと共に形状回復時定数を測定した.その結果,健常人ではMCV,MCHCの値に関わらず時定数はほぼ一定の約50 msを示し,これから大きく外れると赤血球が異常を有する可能性が示唆された.また,血糖値やHbA1cの増加に伴い時定数の平均値は短縮,変動係数は増加した.これは,血球膜が血中グルコースレベルだけでなく,高血糖に曝された時間が長くなることでより硬化が進むと考えられ,これにより若い血球と比べ加齢の進んだ血球が糖化の影響を受け,より膜が硬化したために,高血糖サンプルの時定数平均値は短くなり,変動係数が増加したと考えられる.また,糖化による膜硬化が起きても,体内を流れる赤血球の形状回復時定数には下限があり,その値は20 ms程度であり,脾臓によって変形能の低下した赤血球が回収されたり,毛細血管をかろうじて通過できる程度の硬さに相当していると考えられた. また実用化を視野に入れ,画像処理手法の改良を行うことで,従来比で10倍程度の処理高速化が実現できた. 以上の結果から,本手法を糖化により膜硬化した赤血球をスクリーニングする方法として応用できる可能性が示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H24年度実施計画書の作成時に予定していた実験目標のうち,糖化赤血球が形状回復能におよぼす影響や,実用化に向けた画像処理法の改善については,予定通りもしくは,当初H25年度に予定していた実験を前倒しして実施し,血糖値やヘモグロビンの糖化度が形状回復能におよぼす影響を明らかにしており,十分な成果を得ることができたと考えられる. 一方,当初H24年度に予定していた血球の破壊特性や血球に人為的に繰り返し変形を与えた時の疲労度が変形能におよぼす影響を調べる試みについては,マイクロピペットを用いた引張試験を実施し評価を試みたが,マイクロチャンネル法と比べ実験サンプル数が圧倒的に少ないため,各研究の個体差や実験時のエラーにデータが埋もれてしまったと考えており,このため十分な考察を行うに至らなかった.よって,この点については,やや遅れていると言わざるを得ない. 以上のことから,予定以上に進捗した内容と一部遅れが出ている内容があるため,おおむね順調に進展していると自己評価している.
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今後の研究の推進方策 |
異常を有する血液として,糖尿病だけでなく,正色素性貧血と低色素性貧血といった貧血患者の赤血球,またその他血液検査指標が正常値から外れたサンプルを対象として,本研究で実施しているマイクロチャンネル法による形状回復時定数の測定を行うと共に,一般的な臨床血液検査結果との比較を行うことで,「赤血球の変形能としての形状回復時定数」と「赤血球ヘモグロビン量」や「赤血球膜とHb の糖化度」に関するデータベースの構築を目指す. さらには,当初H24年度に予定していた,コーンプレート型粘度計等で繰り返し応力付加によって,人工的に力学特性や疲労度を操作した病的血球を使い,マイクロマニピュレータシステムと微差圧計を使い単軸引張および破壊試験を行うことで,血球の疲労度と静的破壊特性(血球膜破断に至る応力・ひずみ曲線)および変形能としての形状回復時定数の関係を考察することで,膜特性や内包ヘモグロビン溶液の特性が,形状回復能におよぼす影響を明らかにするとともに,実際に血球に変形を与える際に必要な力や,変形の反力としての力を測定することで,材料定数などを見積もるなど,定量評価を試みる.
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次年度の研究費の使用計画 |
H25年度は研究計画の最終年度であることから,高額な研究機器・装置の購入予定は無く,主にマイクロチャンネルチップなどの消耗品の購入と,国内学会での発表のための旅費,および成果投稿のための投稿費用に使用する予定である.
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