研究課題
ヒス束終端からプルキンエ線維網を介して心室筋に至る部分の興奮伝播様式を再現するために,プルキンエネットワークの解剖学的構造を単純化し格子状の経路を有する伝導モデルをコンピュータ上に構築した.さらに格子の接点位置や経路のあるなしを組み合わせた9種類の multi-pathway 伝導モデルを追加で構築した.その上で gap junction の伝導率を変えながら,ヒス束終端からプルキンエ線維網を介して心室筋に至る伝導シミュレーション実験を行った.その結果,multi-pathway伝導モデルの1つで gap junction の伝導率の低下に伴ってプルキンエ線維網内で伝導ブロックが生じるようになり,引き続いて興奮が再入(リエントリ)しプルキンエ線維網内で伝導し続ける現象が観察された.本実験結果により,プルキンエ線維網自体の解剖学的構造と,gap junction の伝導率の低下の組み合わせが,プルキンエ起源の不整脈発生の要因であることが示唆された.合わせて,病理組織標本デジタル画像から心臓刺激伝導系の3次元可視化を行った.400マイクロメートル間隔の連続切片組織標本30枚に対してマッソン染色を施行し,スキャナを用いてデジタル画像を取得の上,用手的に位置合わせとセグメンテーションを行い,それらを積み上げボリュームデータとすることで3次元構築を行った.その上で分かりやすく可視化できインタラクティブな操作ができるアプリケーションの開発を行った.平成25年度は1症例のみを対象とし,房室結節周辺からHIS束に至るまでの刺激伝導系の3次元構築と可視化を行った.
3: やや遅れている
本研究計画では,プルキンエ線維-心室筋移行部の構造を反映させた電気生理学的心臓モデルを計算機上に構築し,非対称興奮伝導を再現できるシミュレーション実験システムの開発を行うこととなっている.心室筋側について,開発はひととおり終わっており,心室筋のみを用いた特発性不整脈の発生メカニズムの研究が実施できる状況である.プルキンエ線維側について,プルキンエ線維網自体の構造や伝導率を変えながらの不整脈発生メカニズムの研究が実施できる状況であるが,心室筋とプルキンエ線維とを接続して非対称興奮伝導を再現する実験を実施するに至っていない.従って達成度は「やや遅れている」と評価する.
今後とも引き続き構造モデル構築とシミュレーション実験システムの開発を実施する.特に遅れているプルキンエ線維部分と心室筋部分の接続した上での非対称伝導の再現実験を優先的に実施する.その上で生理的に妥当な詳細構造を徐々に反映させていく計画である.シミュレーション実験に必要なパラメータをプルキンエ線維-心室筋移行部の光学顕微鏡像および電子顕微鏡像から取得する計画については,追加の画像撮影ができず必要なパラメータを取得できない場合に備えて,追加で文献からの情報収集や,心臓形態学の専門知識の提供を依頼する予定である.
平成24年度にシミュレーションシステム開発の遅れから支出を見送った計算機使用料を,平成25年度は予定どおり支出を行った.一方で国際学会発表のための海外旅費が予定より安価で済んだこと,謝金の支出が平成25年度はなかったこと等が,次年度使用額が生じた理由である.データ保存のためのハードディスクの購入に使用する計画である.
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