本研究の目的は,科学的根拠に基づく医療を推進するために,脳血管障害片麻痺者(以下,片麻痺者)を対象とした歩行能力の定量的評価手法を開発することである.本研究では「歩行速度の変化」に着目しているため、開発された評価手法は片麻痺者の歩行能力に 特化したものではなく義足歩行や変形性関節症など他の疾患の歩行能力も同一の評価軸で評価できるようになるものであり、このように本研究で開発する評価手法は科学的根拠に基づく医療を推進するために意義深いものである. 本研究では、10mの歩行路を歩行したときの床反力、腰部の加速度および3次元座標の計測を健常者、片麻痺者、変形性膝関節症者(以下、膝OA)および変形性股関節症者(以下、股OA)を対象に行った。加速度と3次元座標の座標系は、歩き出す前の静止立位時における左右方向をX軸、前後方向をY軸、上下方向をZ軸とした。床反力と加速度の計測に用いたサンプリングレートは1kHz、三次元座標は100Hzである。 歩行周期内における歩行速度の変化は、腰部の3次元座標と加速度から、それぞれ、別個に算出した。算出した速度間には相関が見られたが、3次元座標から算出された速度と加速度から算出された速度は異なっていた。これは、特に片麻痺者で多かったが、疾患により身体の左右バランスに偏りが生じることにより体幹に大きな回旋が生じてしまい、被験者の進行方向と加速度計のY軸方向にズレが発生したことが主たる原因と考えられる。体幹の回旋による進行方向と加速度計のY軸方向のズレを加速度計のみで校正することは困難であり、臨床応用に課題が残る結果となった。一方、3次元座標から算出した1歩行周期における歩行速度の変動係数は、健常者、膝・股OAおよび片麻痺者の順で大きくなっており、歩行周期内における歩行速度の変動が、歩行能力を評価するための汎用的な指標となることが示された。
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