研究課題
我が国における深刻なドナー角膜不足を解消するため、近年角膜上皮や内皮に対する再生医療 技術が考案され一部臨床応用されているが、透明で強靭な角膜実質に関しては有力な代用法がない。これまで角膜実質代用物創製を目標に生体材料透明化法等の数々の独自技術を開発し、生体角膜に匹敵する透明性・強度を有するコラーゲン積層膜や透明化羊膜を作製してきた。平成24年度は(1)羊膜を主体とする角膜実質代用物の作製とその有効性評価を行うとともに、(2)適応拡大を目指して透明化材料の物性評価を進めた。羊膜は前眼部の再建に頻用される組織であるが、膜厚が通常 100 μm 以下であり、透明化後には 10-30 μm 程度になる。そのため厚み 450 μm の角膜実質に対しては1枚移植したのみでは厚みが十分ではない。そこで羊膜を積層させて移植片として必要な厚みを有する透明化羊膜の作製を試み、家兎に対する表層角膜移植が可能であるかを評価した。従来の単層透明化羊膜では厚みが足りないだけでなく縫合時に移植片が亀裂するといった課題があった。しかしながら積層した後に透明化処理(乾燥と化学架橋)を繰り返すことで、十分な厚みを持たせるだけでなく、表層角膜移植術で実際に行われる縫合に耐えうる力学特性を付与できることが明らかになった。また縫合中に積層した移植片が大きく剥離するなどの問題が生じなかった。現在架橋条件の最適化と経過観察を行っている。また適応拡大をめざし、透明化羊膜や透明化コラーゲン積層膜の光学的な特性や生体適合性等の基本的な特性評価を確認するとともに、表層角膜移植以外の眼疾患治療法への応用に関する基礎研究にも着手し、対象とする疾患や候補となる治療方法、薬剤の検討を行った。
2: おおむね順調に進展している
表層角膜移植への応用を目的とした透明化羊膜の改変は順調に行われ、角膜実質様の湾曲、厚み、強度を付与することに成功した。また家兎に対して実際に表層角膜移植を行い、縫合可能であることを確認した。これらは当初の計画通りに行われ、狙い通りの成果に結びついており、目的を達成できたと考えている。さらに課題を抽出した上で新しいタイプの移植片の開発にも別途結びつけており、一部想定以上の成果に結びついている。適用拡大を目指した物性評価に関しても、角膜実質層内移植試験などを順調に行い、光学特性試験に関しては想定以上の成果に結びついているが、培養試験に関しては一部評価が遅れている部分もあるため、全体評価をおおむね順調に進展しているといした。
本研究の最終目標は生体組織透明化技術を発展させ、何らかのかたちで実用化に結びつけることである。表層角膜実質の移植片としての応用に関しては、当初検証を計画していた手法に関する検証をほぼ終えている。中長期的な経過観察の結果を確認して課題を抽出した後に当初の計画以外の対策も含めながら研究を推進してゆく予定である。また角膜実質移植片以外により産業化に結びつけやすい保護膜の開発にも別途着手して技術の実用化の促進を加速させるような研究を進めてゆくことを計画している。
次年度使用経費は予定していた学会への参加や打ち合わせを中止したことと、培養実験の詳細検討の一部を次年度に持ち越すことしたため生じた経費である。生体親和性を詳細に評価するために、培養後の細胞を分子生物学的な手法を導入して詳細に解析することを予定している。分子生物学的な手法として網羅的解析を導入する。また手術道具が劣化してきており、研究結果に影響しかねない状況になりつつあるため手術道具を新調する。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
Am J Ophthalmol
巻: in press ページ: in press
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http://www.oph.med.tohoku.ac.jp