研究課題/領域番号 |
24700475
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
井上 祐貴 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (40402789)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 表面間力 / ポリマーブラシ表面 / タンパク質吸着 / 原子間力顕微鏡 |
研究概要 |
マテリアル表面へのタンパク質吸着は、その後の生体応答の起点をなす重要な初期応答である。本研究では、タンパク質吸着を究極的に抑制する分子レベルの表面設計指針の提示に向けて、極低タンパク質吸着特性を有するポリマーブラシ表面で作用する表面相互作用力を定量的に解析することを目的とする。タンパク質吸着を究極的に抑制することは、生体内で使用されるマテリアルを創製する際に必ず考慮されるべき事項であるため、これを定量的に解析することは意義深い。 計画している具体的な主たる研究項目は、①精密構造を有するポリマーブラシ表面の作製、ポリマーブラシ表面における②タンパク質吸着挙動の速度論的解析、③タンパク質との相互作用力解析、および④表面相互作用力の分離とその特性解析、の四つであり、これらの関連性を様々な化学種や表面構造を有するポリマーブラシ表面に対して系統的に評価する。 今年度は、種々の化学構造を有するポリマーブラシ表面を表面開始型原子移動ラジカル重合法により構築する手法を確立した。特に、三次元構造が精密に制御されたポリマーブラシ表面におけるグラフトポリマー鎖の存在状態を明らかとした。作製したポリマーブラシ表面において、緩衝液中で電荷の異なるタンパク質が吸着する量およびその相互作用力を測定した。その結果、ポリマーブラシ表面とタンパク質のそれぞれが有する電荷により、タンパク質吸着挙動が大きく変化した。特に、双性イオン型の構造を有するリン脂質ポリマーブラシ表面は、タンパク質の吸着を劇的に抑制した。ポリマーブラシ表面とタンパク質に発現している官能基との相互作用を、予定されたものの一部の官能基に関して定量的に解析し、その相互作用がタンパク質吸着挙動と密接に関連していることを明らかとした。 このように、今年度の研究により、構造明確なモデル表面の作製とその表面に対するタンパク質吸着挙動の解析を達成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、①精密構造を有するポリマーブラシ表面の作製、ポリマーブラシ表面における②タンパク質吸着挙動の速度論的解析、③タンパク質との相互作用力解析、および④表面相互作用力の分離とその特性解析の四つの項目を計画しており、今年度は①および②を、来年度には③および④を達成する予定としている。今年度、①は十分に達成されたが、②に関しては、その一部である吸着量の解析の達成のみにとどまった。しかしながら、先行して進めている③の項目に関して、タンパク質と表面との直接の相互作用力にとどまらず、タンパク質に発現している官能基と表面との相互作用力を解析する手法を確立することができた。現時点で官能基との相互作用解析は、予定されている官能基の一部の達成ではあるが、それでも官能基レベルの相互作用力が、タンパク質吸着挙動と密接に関連することを明らかとしており、今後タンパク質や官能基の種類を広げることで、より明確にその相関を示すことができる。 このような総合的な判断により、本研究はおおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、マテリアルのモデル表面として、様々な表面特性を有するポリマーブラシ構造を作製することができた。また、その表面におけるタンパク質吸着挙動を、吸着量の観点からはもとより、表面とタンパク質との直接的な相互作用力の観点からも解析することが可能となった。このようなタンパク質とマテリアル表面との相互作用には、マテリアル表面で働く表面力や分子間力が大きく関与する。今後は、原子間力顕微鏡による相互作用力解析をさらに発展させ駆使することにより、このような表面力を定量的に解析することに主眼を置く。これを実現するため、基板およびプローブ表面に種々のポリマーブラシ構造を構築し、両者間に働く静電的相互作用、疎水性相互作用、水素結合などの分子間力を解析する。特にこれらの分子間力の強度はもとより、その伝播する距離にも着目し、総合的に表面で働く相互用力を解析する。さらに、相互作用を評価するにあたり、生体内環境に近い緩衝液を用いることはもとより、pHや塩強度の異なる緩衝液や、グラフトポリマー鎖の溶解性を考慮した良溶媒や貧溶媒を用いることで、モデル表面で作用する相互作用力を多角的に解析し、その理解を深める。同時に、タンパク質とポリマーブラシ表面との相互用力に関しても、官能基やタンパク質の種類を増やし解析を継続する。 このように、構造明確なモデル表面におけるタンパク質吸着挙動を、表面相互作用力の観点から総合的に解析することで、タンパク質の吸着を究極的に抑制する表面の設計指針を提供する。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度は、モデル表面の作製とその表面構造の徹底的な評価およびタンパク質吸着着挙動解析を行った。これらには、シリコン基板や測定装置に専用の金薄膜基板など市販されている高価な均質表面が必要であった。一方、タンパク質吸着挙動解析に使用するタンパク質に関しては、今年度はその解析手法の確立に焦点を置いたため、比較的安価なタンパク質を使用するにとどまった。このような事情により、次年度に使用する予定の研究費が生じた。翌年度は、高価な草莽品を多用する原子間力顕微鏡や水晶振動子マイクロバランス、表面プラズモン共鳴などを駆使した表面相互作用解析やタンパク質吸着挙動解析が主となる研究項目が予定されているため、これらを着実に遂行することにより目的を達成する。また、国内・国外を問わず積極的に学会発表に参加し、国際誌への論文投稿を定期的に行うことで本研究の成果を社会に発信する。
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