当初光分解性の歯科用レジン添加剤の開発を目指して研究を進んできたが、光分解性レジン添加剤の合成ルート確保に遅れが生じ、まずは還元条件下で分解するレジン添加剤の合成を進めてきた。そのため、必要最小限の還元反応によって全体のレジン硬化体の機械的強度の低下が可能な添加剤の設計を行った。具体的には末端ジスルフィド結合を有するポリロタキサン(PRX)を合成し、汎用の歯科用レジンモノマーとの架橋反応が可能なメタクリレートの導入を試みた。PRXは環状糖分子であるシクロデキストリン(CD)が線状の高分子であるポリエチレングリコール(PEG)に貫通された分子ネックレス構造を持つ超分子の一種であり、非共有結合にて複合体を形成していることから末端だけの反応で、複合体の構造を崩すことができる。このような概念をもとに、歯科用レジンモノマーである2-hydroxyethyl methacrylate (HEMA)やurethane dimethacrylate (UDMA)との相溶性を有すると同時にメタクリレート基を含有する新規分解性PRXの合成を行った。相溶性の確保のためにはn-buthylamineをCD表面の水酸基とカルボジイミダゾール(CDI)を媒介とした縮合反応にてPRXに導入することを試みた。さらに2-aminoethyl methacrylateを同じ反応ルートで導入し、n-ブチル基とメタクリレート基が同時に導入された分解性PRXの合成を行った。合成した分解性PRXを利用し、歯科用レジンモノマーであるHEMAとともに硬化体を作製した後、刺激(DTT)による硬化体の分解特性を確認した。その結果、DTT溶液で処理されたプラスチックのビッカス硬度は未処理状態の3%程度まで低下し、硬度が大幅減少することが確かめられた。このことは当初計画した、刺激分解性歯科用レジン重合体の合成が可能であることを示唆する結果である。
|