研究課題/領域番号 |
24700478
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
南 広祐 東京医科歯科大学, 生体材料工学研究所, 助教 (70447499)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 生体組織 / コラーゲン / 組織工学 |
研究概要 |
前年度では、組織体作製の基礎研究としてコラーゲン分子論的観点から接近し、コラーゲンの分子間相互作用を調べる予定であった。溶媒により作用する分子間相互作用それぞれであり、影響されるコラーゲン構造は異なるので、コラーゲン分子構造を2次、3次、4次構造変化を全て明確に究明し、コラーゲン分子構造に関する知識を確立することを目的とした。 私はコラーゲン繊維構造体である4次構造体の配列と側面凝集(lateral aggregation)に注目し、繊維形成メカニズムの究明と調節に取り組んだ。これは、生体類似組織体を作製するために重要である。私は、表面とコラーゲン相互作用が弱い表面上では、コラーゲン分子の配列が行われ、繊維の配列が可能になることを見出した。また、繊維の配列によりコラーゲンの側面凝集が行われ、太い繊維が形成されえることが分かった。 コラーゲンの配列が側面凝集を誘発することから、私は、より効率にコラーゲン分子を配列させ、繊維化する方法を検討した。具体的方法として、コラーゲン水溶液と生理食塩水を一定な速度で同時にセルの中に流す方法を採択した。その結果、流速が早くなるとともに、コラーゲン分子の配列比率が上昇することを見出した。繊維化開始は5分以内で行われ、24時間継続するため、より精密な調節が必要であることが分かった。 一方、私はコラーゲンと第2成分との複合化を行い、多機能を発揮可能なコラーゲン多層複合構造体作製の予備実験を行った。コラーゲンに第2成分を加え、特定の条件で混ぜれば繊維構造を有するコラーゲン複合体が作製可能である。第2成分として私は体に存在するグルコサミノグリカン(GAG)を選んだ。GAGはカルボキシル基を有し、コラーゲンのアミン基とアミド結合による複合体の作製が可能である。この現象を利用し、水の中で安定な構造体を作製するため、2%コラーゲン-GAG複合体の作製し成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
この研究の達成目標として1)コラーゲン繊維の方向性、2)コラーゲンとグリコサミノグリカンおよびエラスチンなどの第2成分との複合化、3)多層構造コラーゲン構造体の開発など3つを設定した。平成24年どでは、上に記した目標の中で1と2の達成するための研究を進めていた。コラーゲン繊維の方向性の調節の場合、方向性の達成はより太いコラーゲン繊維の形成に関連していることを見出した上、高効率の方向性を有するコラーゲン繊維の獲得の技術を習得中である。これはコラーゲン組織体の基礎になる重要なキー技術であり、機械的特性の確保、生体内での安定であり、炎症反応抑制の発揮など人工組織としの応用が期待される。第2成分との複合化の場合、D-stagger構造を有し、水で安定なコラーゲン-GAG複合体の作製条件を確保してある。また、この研究でGAGの種類と濃度によってコラーゲン-GAG複合体の機械的、物理的特性が異なることを発見した。 基礎科学の面からは、コラーゲン繊維の形成に関してのメカニズムの究明にも進歩があった。コラーゲン分子との弱い相互作用はコラーゲン分子の再配列を誘発し、方向性を有する繊維の作製が可能であることを分かった。また、コラーゲンの配列は側面凝集につながり、より生体構造体に近いコラーゲン繊維束ができ、生体類似構造体の作製が可能になることを見出した。これは、生体中での側面凝集によるコラーゲン繊維束の形成メカニズム究明のために重要なキー発見したことを意味する。また、本研究計画に記した生体組織構造を充実に模倣し、軟組織機能の再生に最も重要な発見であると考えられる。現在、この発見について論文を作成している。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度からは平成24年度に習得した知識を技術に基づき、D-staggerを有し、高機械的特性を発揮可能な多層コラーゲン構造体の作製に取り組む。コラーゲン水溶液の濃度を調節することで、密度均配性を有し、方向性を有するコラーゲン組織体の作製を試みる。密度均配に関しては既に基礎知識を有している。しかし、既存のラーゲン組織体はミクロフィブリルで構成されており、方向性もないので、応用には及ぼさなかった。前年度で習得した技術と融合することで、生体組織に近い構造を有する人工組織体の作製に接近することが可能になり、軟組織体の代替物としての応用が期待される。 そのため、今年度からは組織体の作製と同時に細胞実験を本格的に行う。コラーゲン組織体の問題点として指摘される3次元的細胞培養実現するため、細胞との相互作用と細胞浸潤性を検討する必要がある。構造制御により得られたコラーゲン複合構造体の表面は、その制御法により表面特性が異なるため、細胞に対しての相互作用に変化が生じる。特に、繊維化されたコラーゲン構造体の表面を生体組織のミクロ構造まで充実に模倣した繊維構造を作製する。私は、作製されたコラーゲン組織体表面での細胞接着、分化、増殖を検討し、表面と細胞間相互作用を調べる。また、腱、角膜、心臓弁、血管など、それぞれの使用目的に合わせてコラーゲン複合構造体を設計し、生物学的評価を行う。 一方、生体組織に関しての知識を深めるために、細胞化組織を作製して、この組織構造と物理的特性、そして生物学的特性間関連性を検討する。構造および機能など、生体組織関する基礎知識を調べる必要がある。私はこの研究の一環として生体組織の機能評価を行い、得られた知識を生かして人工組織体の作製に応用する計画である。
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次年度の研究費の使用計画 |
前年に続き、コラーゲン、クリコサミノグリカンなどの薬品の購入が必要である。これらは、複合組織の作製に必要はものである。また、エラスチンなど生体組織を構成する因子を購入し、複合化を試みる。また、架橋剤などの化学薬品藻必要である。これに加え、方向性を有するコラーゲン組織体の開発のため、種々の実験器具を購入する計画である。表面観察(AFM, SEMなど)と物理的特性の測定のための消耗品を購入する。これは、生体組織のミクロ構造まで模倣する必要もあるからである。これらを用いて計画通り生体類似組織体を作製し、その物理的特性の評価を行う。 今年度からは細胞実験に必要な生化学試薬と培養器具を購入する計画である。特に、細胞培養実験から、細胞とコラーゲン組織体間相互作用について様々なデータを習得する予定であるため、細胞培養に必要な物品の購入は必修である。具体的には、作製された生体類似組織体のミクロ構造および物理的特性と生物学的特性間関連性を詳しく検討することで、組織体の機能評価と生体内での移植に必要な情報を蓄積する。
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