最終年度は、ハイブリッドコアセルベートによる生体分子-分離システムの検討として、高分子修飾された金属ナノ粒子とコアセルベートとの複合化を検討した。交流磁場による自発的な発熱を有すると考えられるナノ粒子として、コア内部に鉄を含んでいるフェリチンタンパク質を選択した。フェリチン水溶液に交流磁場を照射することで、(熱)変性によるタンパク質の構造破壊は確認されたものの、フェリチン濃度が低いこと、またナノサイズの鉄コア(約6 nm)であるため、自己発熱による顕著な温度効果が観察されにくいことが示唆された。そこでサイズ制御可能な三次元構造化として、フェリチンと前年度までに調製した刺激応答性高分子を用い、交互積層法による多層構造化および共有結合の導入により安定な積層膜を調製した。積層膜内のフェリチン(鉄コア)の含有量の増加に比例した酸化還元挙動が観察され、構造化(濃縮化)することで交流磁場照射における効果的な発熱挙動が期待された。またヤヌス型フェリチン粒子の調製を目的に、液-固界面における異方的な高分子修飾を検討した。電荷を有する高分子多層膜上にフェリチンを単層固定化し、ポリエチレングリコールを異方的に化学修飾させたのち、溶液内のpH調整により単層固定化の駆動力である静電相互作用を解除し、分離・単離させた。異なる分子量の固定化(グラフト密度など)は、水晶振動子マイクロバランスにより評価した。ヤヌス型フェリチンは溶液中で数百ナノメール程度の会合体を形成することが動的光散乱法等により確認された。現在、これら会合体とコアセルベートとの複合体を調製し、交流磁場照射による自発的な発熱に伴う形態変化や、熱によるタンパク質のダメージ等を評価している。
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