前年度に「鉄の肺」が作製できたことから、平成25年度は、小型実験動物のマウスの肺へ微粒子粉末を吸入させること、さらに微粒子の肺における分布を明らかにすることを目標とした。 はじめに、粒径の小さな活性炭をマウスに吸入させ肺を摘出したところ、活性炭が肺全域へ送達されていることがわかった。さらにその肺の組織切片を作製したところ、活性炭が肺胞部位にまで送達されていることが明らかとなった。従って、「鉄の肺」を用いて呼吸に同期させて粉末を吸入させることにより粉末を効率よく肺胞へ送達させることができると示唆された。そこで、吸入型の抗結核治療薬として研究を進めている粉末微粒子、すなわち抗結核薬のリファンピシンを20%内包したポリ(乳酸-グリコール酸)微粒子をマウスへ0.5 mg吸入させた。まず、マウスの肺へ投与するための既存の装置であるPenn-Century社製DP-4Mと本装置の肺への微粒子の送達量について比較したところ、「鉄の肺」はDP-4Mに比べ3倍以上高い肺への送達量を示し、乾燥肺組織重量あたり60 μgのリファンピシンを送達できていたことが明らかとなった。さらに、微粒子の肺における分布を明らかにするため、肺を五葉に分け、それぞれの葉へ送達された微粒子中のリファンピシン量を定量した。「鉄の肺」により吸入させた微粒子はマウスの各肺葉へ均等に送達されており、各肺葉へ送達されたリファンピシン量は乾燥肺葉組織重量あたり47~80 μgであった。この量はリファンピシンが効果的に抗結核作用を示す濃度である5 μg/mLを超えると考えられ、「鉄の肺」が肺への薬物送達において極めて有用な装置であると考えられた。 以上のことから、前年度からの研究を通して、マウスに対しても吸入させることのできる画期的な粉末微粒子吸入装置を完成することに成功した。
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