研究課題/領域番号 |
24700489
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
山添 泰宗 独立行政法人産業技術総合研究所, 健康工学研究部門, 主任研究員 (00402793)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 擬似癌組織 / 薬効評価 / パターニング / 組織工学 |
研究概要 |
研究代表者らは近年、血清アルブミンを原料として作製した架橋アルブミンフィルムにより、細胞の接着挙動を人為的に制御する方法を開発した。本研究は、癌組織を一度細胞レベルにまで分解した後、同フィルムを利用して、抗癌剤の薬効評価に適した形に組織を作り変える技術を構築し、この再構成した擬似癌組織を用いて、個々の癌患者に適した抗癌剤を投与前に判別できる新規の薬剤評価法を確立することを目的とする。この目的を達成するためには、癌組織を構成している各種細胞を抗体を利用して分離する技術、浮遊細胞を基板上に固定化する技術、癌細胞の周囲に間質細胞を配置する技術を確立することが求められる。 これら各要素技術に関して、H24年度における研究成果の具体的内容は以下の通りである。①固定化した抗体の安定性や配向は、細胞の分離効率に大きな影響を及ぼす。そこで、より効率的な細胞分離を実現するために、抗体の配向を制御しながら基板上に抗体を安定に固定化する新規方法の確立に向けた検討を行った。②血液細胞を基板上に固定化して癌組織内の血管系を模倣することを考えているが、血液細胞は浮遊細胞なので、基板上に接着できない。この問題を解決するために、細胞膜に親和性を有する化学試薬、アルブミンフィルム、インクジェット印刷技術を組み合わせ、基板上の任意の位置に浮遊細胞を配列することに成功した。③癌間質線維芽細胞や単核細胞の株化細胞をモデルとして用い、癌細胞の周囲にこれらの細胞を配置して、擬似癌組織を構築するための培養デザインの検証を行った。さらに、癌細胞のみの場合と癌細胞の周囲に間質細胞が存在する擬似癌組織の場合とでは、癌細胞の増殖や抗癌剤の薬効が異なることを明らかにした。④癌モデル動物の作製に向けて、ノウハウを有する研究者(獣医学部や企業)とコンタクトを取り、意見交換を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究全体としては、順調に進展していると判断する。その根拠について、個別の要素技術ごとに以下に記す。①抗体を利用した細胞分離技術に関しては、分離効率の飛躍的な向上を目指し、新規の抗体の配向制御技術の確立や固定化抗体の安定化に挑戦している。抗体の配向制御のための化学修飾法や固体化された抗体を安定化させる因子の特定に関する基礎的検証は終了しており、特許出願を検討する段階にまで研究は進展している。また、関連する研究として、細胞分離の検証の際に必要となる細胞膜の蛍光色素によるラベリングを簡便に行えるマイクロ流路チップを開発し、論文を執筆することができた(現在投稿中)。②浮遊細胞を基板上に固定化する技術に関しては、我々がこれまで行ってきたアルブミンフィルムを用いた細胞パターニング技術の知見の蓄積もあり、迅速に当初の目標である固体化法の確立を達成することができ、積極的に学会発表を行うことができた。③擬似癌組織の構築に関しては、当初H25年度に実施することを計画していた株化細胞を用いたモデル実験を前倒しで行い、癌細胞と間質細胞から擬似癌組織を構築するための培養デザインや抗癌剤の薬効を評価する方法を確立することができた。④in vivo試験に関しては、本研究目的に適合する癌モデル動物の作製に関する情報収集を行うことができた。また、抗癌剤感性試験のキットを販売している企業との接触にも成功し、複数回の意見交換の場を持つことができた。現場のニーズを反映しつつ、実用的なin vitro 抗癌剤評価法の確立を目指す体制を構築できた点において大きな意義がある。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、昨年度の研究成果をもとに以下の研究を実施する。 ①細胞分離法の確立:癌組織を細胞レベルにまで分解した後、組織中の癌細胞と間質細胞を分離する手法を確立する。分離効率の向上を目指し、抗体の固定化法を工夫することで抗体の配向を制御し、更に昨年度見出したタンパク質安定化剤を添加することで固定化した抗体の安定化を促す。線維芽細胞やマクロファージを認識する抗体を固定化し、異なる蛍光色素で細胞膜を染色した癌細胞、癌間質線維芽細胞、マクロファージなどを用いて、細胞の分離効率を算出する。 ②擬似癌組織の構築と抗癌剤の薬効評価:抗癌剤の薬効評価に適した擬似癌組織を作製し、同組織を用いて抗癌剤評価を行う。癌細胞をコラーゲンゲルに包埋後、細胞接着性を制御できるアルブミンフィルムや昨年度確立した浮遊細胞の固定化法を利用して、癌細胞の周囲に癌間質線維芽細胞や血液細胞を配置することで擬似癌組織を構築する。擬似組織のデザインに関しては、昨年度の基礎的検証で既に確定している。この組織を用いて抗癌剤や抗癌剤のプロドラッグの薬効を評価する。また、アルブミンフィルムを利用して、細胞が接着できる領域を調整し、癌細胞の周囲に配置する線維芽細胞や血液細胞の位置や細胞数を変化させ、比較検討することでこれら癌組織の構成成分が癌細胞や 抗癌剤の薬効に及ぼす影響を明らかにする。 ③癌モデル動物を用いた本抗癌剤感受性試験法の有効性の検証:癌モデル動物を作製、または、購入し、本抗癌剤感受性試験法(in vitro試験)とin vivo試験の抗癌剤評価の結果を比較することで、in vitro試験の的中率を算出し、本試験法の有効性を検証する。
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次年度の研究費の使用計画 |
H24年度の予算に関して、消耗品費や外国出張旅費に関して当初の予想額を下回ったため、本年度への繰り越しとなった。 経費の主要な用途は消耗品費であり、細胞培養に必要とされるピペットや培養皿などの物品、抗体やアルブミンなどのタンパク質、細胞膜に親和性を有する試薬や架橋剤などの化学試薬、実験用動物の購入のために使用する。また、研究成果を発表するための経費(国内旅費、海外旅費、学会参加費、英語論文の校閲費)や研究を円滑に進めるための実験補助員の人件費を計上している。実験補助員に関しては既に契約手続きを終了し、4月から雇用を開始している。
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