個々の癌患者に適した抗癌剤を高い精度で判別できる新規の薬剤評価法の開発を目指し、癌微小環境を模倣した擬似癌組織を構築するとともに、癌細胞の周囲に存在する間質細胞が抗癌剤の薬効に及ぼす影響を検証した。昨年度決定した培養デザインに基づき、ゲルで包埋した癌細胞の上部に癌間質線維芽細胞を、また、下部に単核細胞を配置することで擬似癌組織を構築した。同擬似組織を用いた検討により、線維芽細胞によって、抗癌剤シスプラチンの殺細胞効果が抑制されること、及び、単核細胞によって、癌細胞内の特定の酵素が活性化され、抗癌剤のプロドラッグであるドキシフルリジンの殺細胞効果が増強されることが分かった。また、これら二種類の薬剤を同時に用いた場合の相乗効果を明らかにした。さらに、単核細胞による影響がどの程度離れた癌細胞にまで作用するかを検証するため、固定化単核細胞と癌細胞から成る共培養系を構築した。基板上への単核細胞(浮遊細胞)の固定化は、昨年度確立した細胞膜に親和性を有する試薬とアルブミンフィルムを組み合わせる手法を用いた。同共培養系の癌細胞を抗癌剤に暴露後、死滅した癌細胞を可視化することで、単核細胞の近傍に位置する癌細胞のみが死滅することを明らかにした。以上の結果は、間質細胞の存在により癌細胞の抗癌剤に対する感受性が著しく変化することを明確に示しており、より生体の環境に近い擬似癌組織を用いて抗癌剤の薬効評価を行うことの重要性を示唆する貴重な知見を得ることができた。また、これらの結果に加えて、効率よく癌細胞と間質細胞を分離するために必要となる抗体固定化法の確立や担癌マウス作製のためのノウハウの習得などを行い、in vivo系と本擬似癌組織の双方における抗癌剤の薬効を比較して擬似組織の有効性を検証するための道筋をつけることができた。
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