研究課題/領域番号 |
24700490
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
佐野 将之 独立行政法人産業技術総合研究所, 幹細胞工学研究センター, 主任研究員 (80415687)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | SeVdpベクター / 遺伝子デリバリー / 細胞リプログラミング / iPS細胞 / マイクロRNA |
研究概要 |
欠損持続発現型センダイウイルス(SeVdp)ベクターは、複数の外来遺伝子を宿主の染色体に組込むことなく、長期間、持続して発現させることができる遺伝子デリバリーシステムである。これまでに、SeVdpベクターを利用した細胞のリプログラミングにおいて、SeVdpベクターを細胞から除去することで、外来遺伝子フリーのiPS細胞を作製できることが分かっている。本研究課題では、SeVdpベクターによる細胞リプログラミングにおいて、効果的なベクター除去方法を検討することで、より高効率に外来遺伝子フリーのヒトiPS細胞や特異的組織細胞を作製することを目的としている。 本年度は、SeVdpベクターを用い、外来遺伝子フリーのiPS細胞等を作製するための、効果的なSeVdpベクター除去システムの構築を目指した研究を行った。低分子に応答するリボザイムや組織特異的マイクロRNAの標的配列などをSeVdpベクターに組込み、搭載遺伝子の発現量やセンダイウイルス抗原を指標にし、細胞からのSeVdpベクター除去の効果を検討した。その結果、組織特異的マイクロRNAによる遺伝子発現抑制が、ベクター構築のしやすさ、また細胞毒性などの副作用がない点から、利用しやすいシステムであることが分かった。しかし、単一のマイクロRNAによる効果だけでは、SeVdpベクターの除去に十分でない場合があることが分かり、今後は複数の除去システムを組み合わせて、検証を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、低分子化合物であるテオフィリンに応答してRNAを切断する機能をもつリボザイム(アプタザイム)および内在性のマイクロRNAを利用し、SeVdpベクターを細胞から除去する方法の検討を行った。SeVdpベクターに搭載したレポーター遺伝子またはSeVdpベクターの複製に関与するL遺伝子の非翻訳領域にアプタザイムまたはマイクロRNAの標的配列を組込んだベクターの構築を行った。レポーター遺伝子の非翻訳領域に複数のアプタザイムを組込むことで、テオフィリンの添加により、レポーター遺伝子の発現が抑制されることが分かったが、アプタザイムをL遺伝子の非翻訳領域に組込んだベクターの構築が難しいため、次年度も続けて構築を行う予定である。 SeVdpベクターのL遺伝子の非翻訳領域にHeLa細胞などで恒常的に発現するmir-16の標的配列を組込み、内在性マイクロRNAによるL遺伝子の抑制効果を検証した。その結果、内在性マイクロRNAにより、L遺伝子および搭載遺伝子の発現が減少することが確かめられ、マイクロRNAのターゲッティングにより、SeVdpベクターのコピー数を減少させ、除去を容易にできる可能性があることが示唆された。 SeVdpベクターを利用し、線維芽細胞を神経細胞に改変する方法の検討を行った。その結果、SeVdpベクターを使い、マウス胎児線維芽細胞から神経細胞を誘導する系を構築できた。このとき、L遺伝子の非翻訳領域に神経特異的マイクロRNAであるmir-124の標的配列を組込むことで、神経誘導効率が上昇することが分かったが、作製した神経様細胞でセンダイウイルス抗原が検出されたことから、SeVdpベクターが完全には除去されておらず、神経細胞作製においては、単一のマイクロRNAだけではベクターの除去が難しいことが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究から、効率の良いSeVdpベクター除去のためには、複数の機能性RNAを組み合わせて利用することや、新たな除去システムを考案し、それらを複合的に利用することが必要であると考えられた。今後は、アプタザイムやマイクロRNAの利用に加え、siRNAやアンチセンス核酸など他の機能性核酸の利用も検討する。これまで、SeVdpベクターを用いたiPS細胞作製において、L遺伝子を標的としたsiRNAを利用することで、SeVdpベクターを細胞から除去できることが分かっているが、SeVdpゲノム自体を標的としたsiRNA等についての検討は行っていない。そこで、SeVdpゲノムを標的としたsiRNAやアンチセンス核酸を利用することで、効果的なSeVdpベクター除去が可能かどうかを確かめる。また、タンパク質とRNAモチーフの相互作用により翻訳レベルで遺伝子発現を阻害できる系があるので、これを利用して、L遺伝子の発現阻害を行い、SeVdpベクターの除去効果を確かめたい。 最終的には、SeVdpベクターと構築した除去システムを利用して、効率よく外来遺伝子フリーのiPS細胞や神経細胞を作製する系を確立し、SeVdpベクターが再生医療に幅広く利用できるベクターであることを実証したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
出張の計画変更や研究の進捗に合わせ、使用しなかった経費は次年度に使用する。次年度の研究費は、SeVdpベクター除去方法の開発および細胞リプログラミング研究に係る物品費および成果報告、情報収集のための費用に充てる。
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