薬事法の改正によりすべての医療機器は電磁両立性(EMC: Electromagnetic Compatibility)を満足することが義務づけられた。体内埋込型や密着型の医療機器などの電子デバイスにおいては,生体の存在による各種試験への影響を考慮し,機器が実際に使用される状態に近い条件下で性能評価を行うことが望ましい。動物実験を行うことで試験実施は可能であるが,コストや再現性,倫理的な観点における問題があり,模擬生体(ファントム)の利用が有用である。従来のファントムは数百MHz以上の周波数帯域を対象としたものがほとんどで,たとえば薬事法に基づいたEMC試験項目の一つである放射性妨害はの試験周波数帯域(30 MHz~1 GHz)と比較すると,低周波数帯域においては十分とはいえない。本研究では,EMC試験をはじめとする電気的な特性評価に必要なファントムの特性である誘電率と導電率(以下,電気的特性という)を生体の筋肉の電気的特性に近づけることを目的としている。本研究では従来の高含水ゲルファントムの材料調合割合の調整のみでは実現不可能であった低周波数帯域における誘電率の増加のため,誘導性材料の添加を試み,電気的特性の改善を行った。得られた成果は,低周波数帯域における電磁ファントムの利用にきわめて有用であり,医療機器の開発段階において,より実際の使用に近い状態で各種性能試験を行うことに貢献できるものと考えている。
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