研究課題/領域番号 |
24700516
|
研究種目 |
若手研究(B)
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
齊藤 展士 北海道大学, 大学院保健科学研究院, 助教 (60301917)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 姿勢学習 |
研究概要 |
リハビリテーション場面では患者の運動能力の再獲得が最重要課題とされる.しかしながら,姿勢が不安定なままでは適切に目的動作を遂行することは困難である.そのため,姿勢学習がどのように運動学習に関係するかを解明する必要性があり,上肢運動を繰り返し行ったときの運動パフォーマンスの改善と姿勢学習との関連性を調べた. 健常者を対象として立位でリーチ動作の繰り返し課題を行わせた.被験者は1回の実験で100試行繰り返し行い,計5日間リーチ動作のトレーニングを行った.また,立位で重錘を把持し,合図とともにそれを離す課題も繰り返し行った.このとき,手から重錘が離れる瞬間に体幹への外乱刺激が生じるようにした. これらの健常者に対する2つの実験結果を解析したところ,姿勢学習は数十回の繰り返しで素早く起こることが確認された.また,これらの姿勢学習は数ヶ月間もの期間,持続される.さらに,この姿勢学習は目的動作のパフォーマンスが改善される前に起こることから,姿勢の学習が運動学習に影響を及ぼすことが示唆された. このように,姿勢学習は日常的に行っているリーチ動作であったとしても,運動中に外乱刺激が加わるような普段ほとんど経験することのない動作であったとしても,これらが予測可能な場合には繰り返し行うことにより素早く姿勢学習がなされ,運動パフォーマンスの改善を導くことが示唆された.これは,リハビリテーション場面での患者の運動能力の再獲得にとって重要なことであり,適切な治療を提供するためのひとつの手がかりとなろう.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は交付初年度ということもあり,実験機器の準備や予備実験等を綿密に行い,研究目的とした姿勢学習のメカニズムの解明のため,健常者を対象として異なる意義を持つ2つの動作課題に関する実験を行うことができた.特に,筋電図による姿勢筋活動や三次元動作解析装置による身体重心のデータを研究計画通りに計測できたため,姿勢制御のタイミングや大きさが経時的に記録でき,運動速度や身体動揺の大きさ,姿勢筋活動の変化の詳細が容易に検討できた.また,研究協力者とコミュニケーションを多くとり,足らない情報(データ)や目的を達成するための研究実施体制を確認できた.その結果,研究計画に沿った実験が行え,データの解析が可能となった.解析結果も研究計画を立てた時点での仮説に近い形となっている.ただし,今年度には高齢者を対象として同様の実験と解析を行う予定でいた.しかしながら,研究目的を達成するために健常者で調べておくべき項目が多数生じたため,高齢者での検討は来年度に行うものとした.
|
今後の研究の推進方策 |
研究対象者を健常者および高齢者とし,本年度と同様の動作課題(リーチ動作課題,および立位で重錘を把持した状態から合図とともにリリースする課題)を連続して行わせたときの運動パフォーマンスの改善と姿勢学習の関係を調べる.研究計画どおり健常者は本大学での掲示により募集し,高齢者はシルバー人材センターより被験者を募集する.また,床面の回転刺激が与えられる姿勢動揺装置を用いて本研究目的である姿勢学習メカニズムのさらなる解明を目指したい.随意運動を行う場合だけでなく,外乱刺激による姿勢動揺であっても姿勢学習がなされるかどうかを確かめる.このとき,回転外乱刺激の周波数や振幅を変化させ,下肢のどの関節が姿勢学習に大きく関与するかを膝関節固定装具を装着させて調べる.健常者と高齢者で姿勢学習メカニズムにどのような違いがあるのかを比較検討する.それにより加齢に伴う姿勢学習の変化が確認でき,患者等のリハビリテーション治療や能力低下の予防策の考案が可能となる.
|
次年度の研究費の使用計画 |
今年度,高齢者のデータを記録するために謝金を使用する予定であったが,研究目的である姿勢学習のメカニズムを詳細に解明するためには健常者を対象とした追加の動作課題における実験データが必要と判断した.このため今年度には高齢者を対象とする実験を行わなかったので24年度の研究費に未使用分が発生した.次年度には計画通り高齢者を対象とした実験を行う予定であるため,未使用分の研究費を本来必要とされる謝金として用いる.また,現段階でまとめている研究成果の発表のため発表旅費や論文投稿料として使用する計画である.
|