研究課題/領域番号 |
24700516
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
齊藤 展士 北海道大学, 保健科学研究院, 助教 (60301917)
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キーワード | 姿勢学習 / 運動学習 / 外乱刺激 |
研究概要 |
転倒の危険性や姿勢の安定性に不安を持つ高齢者や患者は多い.この様な者にとって安定した姿勢保持能力の再獲得が豊かな日常生活を送るために必要である.また,座位や立位で上肢運動を行う場合もその動作を適切に行うためには姿勢保持能力が必要とされる.そのため,外乱刺激が加わった時の姿勢保持学習や随意運動を繰り返し行った時の姿勢保持学習を調べた. 随意運動と姿勢学習を調べる研究として,立位で重錘を把持し,合図とともにそれを離す課題を繰り返し行った.このとき,手から重錘が離れる瞬間に体幹への外乱刺激が生じるように操作し,姿勢学習の適応を観察した.さらに,外乱刺激と姿勢学習を調べる研究として床面が正弦波状に傾斜する刺激を与えた場合の姿勢保持能力の適応を観察した. これらの2つの実験結果を解析したところ,随意運動を繰り返し行った場合の姿勢保持学習は数十回の繰り返しで有意な変化が現れた.これに対し,外乱刺激に対する姿勢保持学習は数回の繰り返しで有意な変化が現れた.このように,予測性の外乱刺激に対する姿勢保持学習は比較的早い.しかしながら,随意運動により引き起こされる身体動揺に対する姿勢学習は多くの繰り返しを要する.このような結果は,転倒の危険性や姿勢の安定性に不安を持つ者の姿勢保持能力の改善には,外乱刺激や随意運動を何度も行わなければならないことを示しており,随意運動においてより高頻度でのトレーニングが必要であることを示唆している.これは,リハビリテーション場面での患者の運動能力の再獲得にとって重要なことであり,適切な治療を提供するためのひとつの手がかりとなろう.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的として挙げた姿勢学習のメカニズムの解明のため,随意運動における姿勢学習を調べるだけでなく,外乱刺激に対する姿勢学習も調べた.2つの実験とも統計学的解析が可能な被験者数を確保できた.また,研究協力者と多くのディスカッションを重ねることで,研究目的に則した実験プロトコルの作成や目的を達成するための研究実施体制を確認できた.さらに,筋電図による姿勢筋活動や三次元動作解析装置による身体重心のデータを研究計画に沿った形で記録できたので,実験データが豊富に揃った.計画通りに計測できたため,姿勢制御のタイミングや大きさ,運動速度や身体動揺の大きさ等の比較が容易に検討できた.ただし,当初の計画にあった姿勢学習への予測の寄与に関して未だ解明が不十分であるため,この点を中心に来年度の実験を組みたい.
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今後の研究の推進方策 |
研究対象者を高齢者まで拡げたい.健常者と高齢者で姿勢学習メカニズムにどのような違いがあるのかを比較検討する.動作課題は本年と同様とし,リーチ動作課題(随意運動),重錘リリース課題(随意運動+外乱刺激),および姿勢動揺装置を用いた床面の回転刺激(外乱刺激)に対する姿勢学習を調べる.特に,姿勢学習が姿勢制御の予測期,反応期,随意期のどの期間で起こるのかを解明したい.高齢者の姿勢制御能力は年齢の影響を強く受け低下している可能性があるため,3種類のどの動作課題で姿勢学習の能力が低下するのか,その姿勢制御期間で低下するのかを調査し,加齢に伴う姿勢学習の変化を確認する.重ねて,患者等のリハビリテーション治療や能力低下の予防策を考案する.
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次年度の研究費の使用計画 |
高齢者や中枢神経系の疾患を伴う患者を被験者として集め,実験データを得るため謝金を請求していたが,健常者における実験データが比較対象として必要となった.また,機器の購入や修理の費用が節約できた.このため,当該研究費が生じた. 次年度には高齢者を対象としてリーチ動作課題,重錘落下課題および床面の傾斜外乱刺激の繰り返しによる姿勢制御の学習を調べる.そのために,謝金や消耗品の購入に用いる.また,現在,研究発表の準備が整っているので発表旅費や論文投稿にも用いる.
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