本研究の目的は肩甲骨周囲筋群の量的評価(筋厚)と質的評価(筋電図)を各年代の健常者で行い、どのように加齢変化が起きるのかを詳細に調べることである。肩関節腱板断裂という疾患は若年者でも発症するが、中高年者になると発症率が急激に増加する。この腱板断裂に至る一因として肩甲骨周囲筋群の筋活動量や活動バランスの異常が近年指摘されている。しかし、肩甲骨周囲筋機能の加齢変化については不明であり、腱板断裂の発症率の変化と関係している可能性がある。 本研究では各年代の肩甲骨周囲筋群について筋の量と質の点から多角的に調査した。量的評価には超音波診断装置を用い、各筋の筋厚を測定し、質的評価には表面筋電図を用い、各筋の筋活動を測定し、各年代間の相違点を検討した。 現在まで54名の健常被験者(20-30代15名、40-50代13名、60-70代26名)の測定を完了した。その結果、肩甲骨周囲筋の中でも前鋸筋のみ加齢に伴い筋厚が薄くなっている傾向がみられた。また筋電図データからは各年代によって違いはみられず、パターンの相違は認められなかった。全被験者分の測定は行えていないが1か月以内に完了する予定である。 現在までの結果より肩甲骨周囲筋の中でもすべての筋が加齢とともに萎縮や弱化が起こるのではなく、特定の筋のみが萎縮や弱化を起こす可能性が考えられた。また肩関節挙上時の筋活動は各年代によってパターンの有意な変化が見られないことから、加齢によって肩甲骨周囲筋群の収縮機能や協調性に変化が起こらないのではないかと考えられた。そのため腱板断裂が加齢により発症率が増加する背景には、肩甲骨周囲筋群の収縮機能や協調性の変化によるものより、前鋸筋の筋量低下による筋出力低下が関係している可能性が示唆された。
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