本研究は,表面筋電位信号計測を容易にするための電極貼付位置を推定するシステムの開発を目指す.本システムを用いることで,筋線維の走行方向に沿って,神経支配帯と筋末梢部である腱を除く領域に電極を貼付することが可能となる.本課題を実現するために,表面筋電位信号の計測にはアレイ電極およびマトリクス電極を用いる.得られた表面筋電位信号の形状や大きさなどの波形特徴から電極と筋線維走行方向との角度を推定するとともに,電極を貼付すべきでない神経支配帯と腱の位置を見つけ出すアルゴリズムを構築する.そして,最適な電極貼付位置を可視化して利用者に提供するアプリケーションを開発する. 本課題を達成するために,平成24年度は「神経支配帯の位置を客観的に見つけ出すアルゴリズムの構築」を主な研究目的とした.従来の神経支配帯の推定方法は,主として信号の形状特徴から目視により主観的にその位置を推定しており,正確な神経支配帯の位置を推定するには専門的な知識と労力が必要であった.ゆえに本目的が達成されれば,誰でも簡単に短時間で神経支配帯の位置を見つけることができる. 実験方法と神経支配帯の推定方法を次に示す.等尺性収縮(最大随意収縮の30%,60%,100%)時の上腕二頭筋の表面筋電図を電極間距離5mmおよび10mmのアレイ電極で計測した.神経支配帯推定の解析区間は100ms,80ms,50ms,40msの4条件とした.神経支配帯の推定方法は筋電位信号が筋線維を伝播する速度である筋線維伝導速度を推定する方法の一つである相互相関法を利用した.隣接する信号間の相関係数の大小関係から神経支配帯の客観的位置推定ができる可能性が示唆され,(1)電極間距離が大きい,(2)解析区間が長い,(3)発揮筋力が大きい,場合に神経支配帯が推定しやすいことが明らかになった.
|