研究課題/領域番号 |
24700529
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
神田 寛行 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (50570248)
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キーワード | 人工視覚 / 人工網膜 / 視覚リハビリテーション |
研究概要 |
人工網膜は網膜色素変性で重度視覚障害に至った患者の視機能を再建することを目的とした医療機器である。人工網膜で得られる視覚は健常人の視覚と異なる事があることから、人工網膜の視覚に適応するための視覚リハビリテーションが必要となると考えられる。 昨年度までに、タッチパネルディスプレイとパソコンを組み合わせた視覚リハビリテーションシステムおよびローカリゼーションテストを試作し、音声フィードバックシステムを用いることで手と目の協応運動が改善することを市販の視覚代行機器を用いた実験で検証した。 本年度は、より人工網膜システムの状態に近い方法で実験を行なうために、人工網膜シミュレータを試作した。これは、小型カメラとノートPCとヘッドマウントディスプレイと画像処理ソフトを組み合わせたシステムである。「光の点の集合体として外界の映像を知覚する」人工網膜の視覚の特徴を、このシミュレータは再現することができる。 さらに視覚リハビリテーションのための画像処理の検討を行なった。人工網膜のような49画素の低画素映像では、通常の呈示方法では背景画像がノイズとなり対象物が視認できない。さらに自身の手や指も背景画像に隠れて視認が困難となることがある。近年、提案された顕著性マップという画像処理方法は、特徴的な箇所だけを強調するもので、背景画像の影響を抑えることができる。これにより、指と対象物の両方を同時に視認できるようになり手と目の協応運動のリハビリテーションに繋がるのではないかと考えた。 シミュレータとローカリゼーションテストを用いて、この顕著性マップの画像処理を用いる場合と用いない場合の比較を健常成人5名に対して行なった。その結果、顕著性マップの画像処理を施した方が有意にローカリゼーションテストの成績が高かった。このように、顕著性マップの有効性が示されたことで、第二世代人工網膜への応用可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度の計画では、人工網膜シミュレータを試作して人工網膜向けの視覚リハビリテーションの研究を行なうことを予定していた。 この計画通りに、ノートPCと小型カメラとヘッドマウントディスプレイを使った人工網膜シミュレータを試作することができた。この人工網膜シミュレータを用いて、手と目の協応運動の向上に繋がる視覚リハビリテーションを検討し、その結果顕著性マップと呼ばれる画像処理方法が有効であることが検証できた。 以上のように当初の計画をおおむね達成できたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度に入ると人工網膜の次世代機の臨床研究が予定されている。この臨床試験で人工網膜の手術を受けた患者を対象に視覚リハビリテーションの有効性を検証する。具体的には視覚リハビリテーション後で視機能検査の正答率が向上するかどうか検証する。 また、人工網膜シミュレータを使った実験を通じて、顕著性マップよりもさらに効果的な視覚リハビリテーションの構築を目指す。具体的には、手の像を検出する画像処理で行なうことで、対象物と手との位置関係をより認識しやすくする。これにより手と目の協応運動の改善に繋がるのではないかと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初海外製のヘッドマウントディスプレイを導入することを計画していたが、日本製で高性能かつ安価なヘッドマウントディスプレイが2013年度に入って発売が開始されたため、当初の予定よりもヘッドマウントディスプレイ購入費用が抑えられた。また、画像処理ソフトについても、OpenCV等の無料のソフトウェアを利用することができ、予定よりもソフトにかかる費用が抑えられた。 手と目の協応運動の改善の評価を行なう目的で眼球運動測定に関するソフトウェアの購入あるいはソフトウェア開発の外注費用に充当する。このソフトウェア外注のために必要な打ち合わせのための出張費にも当研究費を使用する。さらに、当該年度までに得られた成果を国際学会で発表するため海外出張費に充当する。加えて、人工網膜シミュレータを用いた臨床試験を行なうため、被験者として参加いただくボランティアに対して謝金を支払う。その他、人工視覚関連の情報収集のための出張費や文献購入にも当研究費を使用する。
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