人工網膜は網膜色素変性で重度視覚障害に至った患者を対象に、失われた視覚を再建することを目的とした医療機器である。人工網膜で得られる視覚は健常人の視覚と異なるため、人工網膜の視覚に適応するための視覚リハビリテーションが必要と考えられる。 昨年度までにタッチパネルディスプレイを用いた視覚リハビリテーションシステムとローカリゼーションテスト装置を開発した。さらに、その効果を健常人で検証するために人工網膜で得られる視覚を擬似的に体験するための装置、「人工網膜シミュレーター」を開発した。さらに、人工網膜における画像処理に顕著性マップと呼ばれる画像処理方法を応用することで、背景画像によらず一定の視認性を維持することが可能となることを、人工視覚システムシミュレーターとローカリゼーションテストを用いて検証した。 本年度は引き続き画像処理方法の検討を進めて、輪郭抽出法と従来法の比較を行なった。その結果、小さな対象物を見る場合は従来法が、大きな対象物を見る場合は輪郭抽出法が適していることを、人工視覚システムシミュレーターによる実験を通じて検証した。 さらに、人工網膜臨床試験に参加されている被験者に協力していただき、ローカリゼーションテストおよび視覚リハビリテーションシステムを使った試験を実施した。その結果、人工網膜を利用していない時に比べて人工網膜を利用している時の方が、高い視認性が得られる事を検証した。加えて視覚リハビリテーションシステムを利用した場合には利用していない時に比べて有意に高い正答率が得られた。
|