研究課題
本研究の全体構想は,関節リウマチ(RA)に伴う筋機能低下の要因について,一酸化窒素の役割に着目して検討する(平成24年度)とともに,対抗手段としての温熱刺激の効果とその作用機序について明らかにする(平成25年度)ことである.実験には,Lewis系雄性ラットを用い,両膝関節腔に完全フロイントアジュバント(CFA: 2 mg/0.2 ml)を注射することでアジュバント関節炎(AIA)を惹起した.CFA投与後1週(AIA1wk群),2週(AIA2wk群),3週(AIA3wk群)において,膝関節幅は対照群に比べ増大した.また,速筋である長趾伸筋および遅筋であるヒラメ筋を採取し,強縮張力を測定したところ,長趾伸筋ではAIA3wk群において,ヒラメ筋ではAIA各群において,固有張力の低下が認められた.さらに,ウェスタンブロッティング法を用いた検討において,AIA3wk群では,いずれの筋においても,3-ニトロチロシンの含有量が顕著に増大していた.骨格筋の収縮及び弛緩において,それぞれ中心的な役割を果たすミオシンATPase及び筋小胞体Ca2+-ATPase(SERCA)は,3-ニトロチロシンの誘導物質であるパーオキシナイトライトにより機能障害を受けることから,本研究では,これらの酵素の活性を測定した.その結果,両筋ともすべてのAIA群においてミオシンATPase活性に変化は認められなかった.一方,SERCA活性は,AIA1wk及びAIA2wk群の長趾伸筋において低下し,AIA3wk群のヒラメ筋では増加することが明らかとなった.これらの知見から,AIAラットの骨格筋において認められる筋機能の低下が,一酸化窒素派生物であるパーオキシナイトライトの生成を伴うこと,また,ミオシンATPase及びSERCA機能の変化は筋機能の低下に関与しないことが示唆された.
2: おおむね順調に進展している
本研究の全体構想は,関節リウマチ(RA)に伴う筋機能低下の要因を探索するとともに,効果的な筋力強化プログラムの開発を目指し,温熱刺激による筋機能の改善効果とその作用メカニズムについて検討することである.平成24年度では,当初の研究計画に従い,RAに伴う筋機能低下における一酸化窒素の役割に着目して検討を行った.研究実績の概要に記載した通り,予定されたほぼすべての実験課題を実施することができたことから,現在までの達成度として,おおむね順調に進行していると判断した.本研究の結果から,アジュバント関節炎(AIA)ラットの骨格筋ではパーオキシナイトライトの生成量の増加が生じることが示唆された.そこで我々は,パーオキシナイトライトがミオシンATPase及びSERCA機能を抑制することで,筋機能の低下を誘引すると考え検討を行ったが,これらの酵素活性と筋機能との間に関連性は認められなかった.したがって,当初実施が予定されていた,これらの酵素における翻訳後修飾の有無についての検討は実験項目から除外した.パーオキシナイトライトの生成量の増加が,筋機能低下に関与するかどうかに関しては,他の筋タンパク質,例えばエネルギー代謝に関与する酵素の機能などを測定することで今後さらに検討を進める予定である.
関節リウマチ(RA)モデル動物であるアジュバント関節炎(AIA)ラットの骨格筋において,著しい筋力の低下が,筋タンパク質のニトロ化を伴うことを示した平成24年度の研究結果は,一酸化窒素派生物による酸化及び窒素化ストレスが,RAに伴う筋力低下の要因であるとする我々の仮説を支持するものであった.したがって,平成25年度は,当初の予定通り,温熱刺激がAIAラットの筋機能に及ぼす影響を検討する.これは,熱刺激により誘導される熱ショックタンパク質が,抗酸化作用及び変性タンパク質の修復・分解作用を有することから,これらが筋機能を改善する可能性があると考えられるからである.したがって,平成25年度の研究期間では,収縮機能の測定により温熱刺激の効果が認められた場合,熱ショックタンパク質の発現量及び筋タンパク質における3-ニトロチロシン含有量の測定を行うことで,その分子メカニズムについて検討する予定である.
該当なし
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