本研究は、重度頚髄損傷者の社会参加拡大にとって重要な動作の一つである、自動車への移乗動作について、自動車に近い環境を設定し、特に体幹の運動に着目した解析を行い、移乗動作獲得を支援するためのプログラムの開発に結び付けることを目的とした。 当初、室内で自動車に近い環境設定を行い、第6頚髄損傷者を対象に、移乗動作を三次元的に分析することを計画していたが、自動車という特殊な環境下での移乗動作を代替した環境で行うことが容易でないことが分かった。自動車への移乗動作は頚髄損傷者が獲得する日常生活動作の中では高度なものとされるが、自動車のドア、ハンドル、シート等で構成される、限られた空間内での移乗は、動作が制限される一方で、四肢や体幹の麻痺がある頚髄損傷者にとっては自身の身体を支持する場所が多いという利点もあることが推測された。特に第6頚髄損傷者は肘関節の伸筋である上腕三頭筋も麻痺していることから、自身の所有する自動車に適した方法で移乗を遂行していることが多く、計画していた「自動車に近い環境設定」では、移乗動作を安全に遂行することが困難であった。 第6頚髄損傷者7名を対象にした三次元動作解析から、自動車への移乗動作中の最大体幹前傾角度が大きいほど、殿部の拳上高が高い傾向があることがわかった。しかし、11名の第6頚髄損傷者の移乗動作を二次元的に分析した結果、効率的な自動車への移乗には、体幹の前傾角度よりも股関節の屈曲角度の大きさが関係していることが分かった。頚髄損傷者は体幹筋にも麻痺があり、体幹筋の活動によって随意的に体幹を前傾位で保持させることは困難である。自動車の限られた空間内では体幹を十分に前傾させるだけのスペースがないことも一つの要因であると考えられたが、股関節の屈曲により骨盤を後傾させ、大腿を自身の体幹の前面に位置させることで、体幹の運動をコントロールしていることが示唆された。
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