運動器障害をはじめとした神経損傷以外の原因で発症する慢性痛は、病態が複雑で治療法、リハビリテーションが構築されておらず、ADL、QOLの低下を引き起こし、社会的に大きな問題となっている。また、臨床的に線維筋痛症、CRPS Iなどで小児の発症が少ないという報告があり、このような若齢期での発症率の低さは生後の発達過程における何らかの要因が発症に関与している可能性があることから、若齢期に着目し、我々の開発したモデルで若齢期処置を行い行動学的、組織学的、分子生物学的・免疫組織学的検討を行っている。これまでに、筋損傷による慢性痛モデルにおいて、成熟(生後9週)処置で急性期の痛みの増強後に長期に続く慢性痛がみられたのに対し、若齢(生後3週)処置では急性期の痛み増強のみで慢性痛は発症しなかった。そこで、若齢と成熟処置での違いが発症要因と関連すると考えられることから、まずは末梢での違いとして障害筋の変化を経時的に検討した。組織学的検討において、急性期においては広範囲な筋細胞の壊死が観察された。成熟処置で慢性痛がみられ、若齢処置では慢性痛がみられない慢性期においては、ほぼ正常に近い筋組織像が成熟、若齢処置のどちらも同様にみられた。また、分子生物学的検討において、炎症性サイトカインであるTNFαの発現は、急性期において成熟処置では増加しているのに対し、若齢処置ではやや減少傾向であった。慢性期においては成熟・若齢処置ともに処置前と同等であった。また、筋の分化・成熟に関与するmyogeninの発現は、急性期においてはTNFαと同様の傾向を示し、慢性期では処置前より成熟処置では減少、若齢処置ではほぼ同等であった。今後さらに、末梢での変化のみならず、中枢での可塑的変容の関与も併せて検索していくことにより、慢性痛発症メカニズムの解明につながる。
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