研究目的:変形性膝関節症(膝OA)は加齢に伴う骨関節疾患の中でも最も多く,膝OAへの対応は医療機関にとって大きな問題である。膝OAの治療は大部分が保存療法であり,運動療法はrandomized controlled trialにて膝OAに対して有効であることが認められている。運動療法の一つである歩行エクササイズも膝OAの痛みや歩行能力を改善することが報告されている。本研究の目的は,膝OAモデル動物を用いて,歩行エクササイズが関節炎モデル,関節不安定性モデルの痛みを抑制するか,また、その抑制効果の機序について検討した。 対象と方法:対象はSD系雄性ラット25匹とした。モノヨード酢酸を膝関節内に投与して作成した関節炎モデル群,前・後十字靭帯切断した関節不安定性モデル群に対して通常飼育のみ行なう群及びトレッドミルを用いた歩行エクササイズを行なう群の計4群に分類した。歩行群はそれぞれMIA投与,前十字靭帯切離2週間後から週5日を4週間,ラット用トレッドミルを用いて歩行エクササイズを行った。痛み閾値は小動物用鎮痛評価測定装置を用いて評価した。また、脊髄後根神経節の免疫組織化学染色及び膝関節軟骨のサフラニンO染色を行った。 結果:関節炎モデルラットにおいて、トレッドミル歩行群はトレッドミル開始2週間後のみ通常飼育群より疼痛閾値が改善していた。関節不安定モデルではトレッドミル歩行開始4週間後より通常飼育群と比較して有意な疼痛の改善が認められた。脊髄後根神経節の免疫組織化学染色及び膝関節軟骨のサフラニンO染色はトレッドミル群と通常飼育群では有意な差は認めなかった。 考察:関節炎モデルと関節不安定モデルではトレッドミルによる疼痛閾値の減少効果には時間的な差があり、また、末梢組織器官の変化も介入の有無によって差がないことから、トレッドミルによる疼痛減少効果は中枢神経系の影響があるのかもしれない。
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