研究課題/領域番号 |
24700572
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 川崎医科大学 |
研究代表者 |
岡部 直彦 川崎医科大学, 医学部, 助教 (30614276)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | リハビリテーション / 脳梗塞 |
研究概要 |
当初は脳梗塞周囲組織から細胞を採取し、すぐにプロテオミクス解析を行う予定であったが、先に梗塞後「いつ」「どこで」神経回路の再構成が行われているかを確認するべきであると考え、初年度は脳梗塞後の神経回路が再構成されていることをin vivoで実際に確認するシステムの確立を行った。 ①大脳皮質微小刺激法(Intracortical microstimulation:ICMS)の確立…大脳皮質の神経回路再構成を調べる部位として大脳皮質運動野を選択し、その神経回路の変化を評価する方法としてICMSのシステム構築を行った。naive ratを用いて行った予備試験では、過去の論文と同様の運動野地図を作成することができており、個体差・麻酔状態による差なども最低限に抑えることができることを確認できた。 ②前肢運動機能試験(Skilled Forelimb Reaching Task:Reach test)の確立…高い感度で前肢機能を評価するため、脳梗塞後の神経機能の評価方法としてReach testを選択し、trainingの方法・期間・給餌量などの最適化を行った。試験の成績は個体ごとの差が大きくみられるが、脳梗塞前後での成績の相対的変化は一定となることを確認でき、今後の実験に使用できるプロトコールが作成できた。 ③梗塞作成方法の確立および条件設定…脳梗塞の作成方法として当初は中大脳動脈閉塞モデルを予定していたが、特定の領域のみに高い精度で梗塞を作成するため、ローズベンガルを用いた光塞栓法(Photothrombosis)を採用することとし、照射位置・照射時間・ローズベンガル投与量・頭蓋骨の掘削方法などの検討を行った。ICMSの予備実験で得られた大脳皮質運動野前肢背側領域(Caudal forelimb area)のみを破壊できる条件が設定できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究の最終目標は当初の通り、脳梗塞後にどのような分子機構によって神経回路再構成が行われるかを調べることであるが、神経回路の再構成が「いつ」「どこで」行われているかを正確に調べるため、ICMSを用いた電気生理学的な実験により運動野のリマッピングを調べることとした。運動野のリマッピングは脳梗塞後に起こる神経回路再構成の一形態と考えられており、さらにリハビリテーションによりその変化は大きく影響を受けることが分かっている。この実験は当初予定いていたBDAによる神経軸索のラベリングと比較して、より神経学的な機能に直結した評価方法であると考えることができる。 この実験計画の修正のため、実際にプロテオミクス解析を行う実験自体は行えておらず研究の達成度自体は計画より遅れることとなった。しかし、初年度でICMS・Reach test・Photothrombosisの実験手法はほぼ確立することができ、当初予定していた実験手法より緻密で精度の高い解析が可能となった。このことにより最終的な実験結果の信頼性が高まることが期待できる。また、プロテオミクスのためのサンプリング時期・部位を電気生理学的手法により吟味することにより、実際の解析はスムーズに進むことが考えられ、コストも節約することができると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
2年目は初年度に確立した技術を生かして、梗塞後の運動野がいつどのように変化するかを2段階の実験で調べる。 最初の実験はラットを naive群、sham群、PT群、PT+rehabilitation群の4群に分け、脳梗塞後4週間で運動野がどのように変化するかをICMSを用いて調べていく。この実験では、ラット①Reach test による運動野の変化(Naive vs Sham)、②脳梗塞による運動野の変化(Sham vs PT) 、③リハビリテーションによる運動野の変化(PT vs PT + rehab) をそれぞれ評価する。また、ICMSのデータと行動試験のデータとの相関を調べることにより、どのような運動野の変化が行動学的な神経機能の改善につながる可能性があるのかを考察する。第二の実験はPT群およびPT+rehab群での運動野の変化を継時的に調べる。この実験ではICMSを梗塞72時間後、1週間後、2週間後、4週間後の4つのタイムポイントで実施する。この実験では、脳梗塞のみによりおこる変化とリハビリテーションをして初めておこる変化を継時的に比較することにより①神経障害によりおこる運動野の急性の変化(例えばunmaskingやdiaschisis)②神経障害によりおこる運動野の慢性の変化(例えば障害肢の不使用による変化)③リハビリテーションによりおこる運動野の変化(PT+rehab群の変化-PT群の変化)を明らかにする。また、リハビリテーションによる運動野の変化と運動機能の回復がどのようなタイミングで起こるのかを観察することにより運動野の変化がどのような機能的意義を持つのかを考察する。さらに、この実験の結果をもとに、プロテオミクス解析に用いるサンプリング時期・場所・方法を決定し、神経回路の再構成を制御するタンパクの同定、機能解析などを順次行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は上述したように、ICMSによる電気生理学的な実験が主となるので、研究費の使途としてはラットの購入費が大部分を占めるものとみられる。また、ICMSを高い精度で行い、質の高いデータを残すため、実態顕微鏡を一台購入予定である。
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