研究課題/領域番号 |
24700572
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研究機関 | 川崎医科大学 |
研究代表者 |
岡部 直彦 川崎医科大学, 医学部, 助教 (30614276)
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キーワード | リハビリテーション / 脳梗塞 |
研究概要 |
本研究は脳梗塞後における神経回路再構成の分子メカニズムの解明を目的として実施している。初年度はPhotothrombosis, Reach test およびIntracortical Microstimulationの技術を確立し、神経回路の再構成がどのように起こっているかを調べるシステムを確立したが、今年度はそのシステムを用い、2つの実験を行った。 1. 梗塞後のリハビリテーションが運動機能および運動野マップに与える影響 脳梗塞により運動野のCaudal forelimb area(CFA)を破壊すると、reach testでの機能は著しく低下した。この機能低下はリハビリテーションを行わない場合では最初の2週間にわずかに回復するものの、その後再び悪化し、最終的にはほとんど改善しない。しかし、リハビリテーションを行うことにより、障害前の80%程度の回復が得られた。さらに、リハビリテーション群ではRostral forelimb Area(RFA)が、非リハビリテーション群に比べ有意に拡大しており、RFAのサイズと前肢機能には有意な相関が認められた。 2.梗塞後の運動野マップの経時的変化とリハビリテーションの影響 梗塞後、RFAは梗塞から離れていたにも関わらず、有意に縮小した。このRFAの縮小はリハビリテーションを行わないと梗塞2週間後まで回復せず、梗塞4週間後でもわずかに回復するのみであったが、リハビリテーションを行うと、2週間後から有意な回復が見られ、4週間後には梗塞前を超える大きさとなった。 これらの結果は、神経回路再構成の起こる時期がリハビリテーションなどの要因によって変化することをしめしており、今後、分子メカニズムを調べるにあたり重要な知見が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究の目標である、神経回路再構成の分子メカニズムの解明のためには「いつ」、「どこで」神経回路再構成が行われているかを確認することが非常に重要である、今年度、我々は昨年度に確立した実験システムにより、「CFA領域を破壊するとRFA領域に変化が起こる」という事象を明らかにした。また、経時的な実験の結果、「RFA領域の変化はリハビリテーションを行った場合では梗塞1週間後から始まるが、リハビリテーションを行わなかった場合には梗塞2週間後以降に始まる」ということを明らかにした。これらの結果は、今後分子的な解析を行うための重要な基礎データであり、研究の目的の達成に向け確実に前進したと考えられる。しかし、初年度にシステムの構築に長い時間がかかってしまったため、分子的な解析へ移行する時期はやや遅れていると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
神経回路再構成の分子メカニズムを調べるため、当初の計画ではプロテオミクスを用いる予定であったが、神経回路の再構成およびそれに伴う機能回復を安定して観察するための条件検討に長い時間を割いてしまい、現時点から細胞の分離法などを確立しプロテオミクス解析を実際に行い期間内に終了させることは困難である。そこで、代替案として過去の論文から神経回路再構成の分子メカニズムに関わっていると考えられる分子の役割を調べることとした。候補分子は記憶・学習などに重要とされるERKやCrebなどの分子である。特にERKは健常時の運動学習においても重要な役割を担っていることが示唆されており、脳障害後の技能の再学習であるリハビリテーションでも重要な役割を持つことが推測される。実験手法としては免疫染色などでリハビリテーションによる活性の変化があるかを調べ、変化があれば阻害薬を用いその活性を阻害することにより運動機能や運動野マップの変化にどのような影響があるかを調べる。この実験により、ERKやCrebなどの分子がリハビリテーションに重要であることが示されれば、リハビリテーションの分子メカニズムが通常の運動学習と同様のメカニズムを利用していることが示唆され、今後さらに分子メカニズムの全体像を明らかにするための重要な知見となると考えられる。
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次年度の研究費の使用計画 |
経費の執行は3月中に行ったが、支払いが4月に遅延しているため。 すでに使用されているため、使用計画はない。
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