本年度は、脳卒中患者に対する非麻痺側膝関節を固定した状態での歩行練習前後の神経生理学的変化および継続的な介入による治療効果を検討した。 神経生理学的変化においては、脳卒中患者ではシナプス前抑制が歩行練習前には減少している状態であったが、非麻痺側膝関節を固定した状態での歩行練習を10分間行った後には健常者と同じレベルまで増強した。通常の歩行練習らおいてはそのような変化は見られなかった。 継続的な介入は8名の脳卒中患者(左片麻痺3名、右片麻痺5名)を対象に行った。対象者の歩行レベルは四点杖での介助歩行から杖なしでの独歩が可能なレベルであった。下肢のBrunnstrome recovery stage(以下BRS)はIII~VIであった。1週間毎に通常の歩行練習と、10分間の装具歩行を交互に継続して行い、ABABAのシングルケースデザインによって毎日の歩行レベル(FIM移動項目)、麻痺側立脚時間、歩行速度、Cadence、麻痺側下肢BRSの変化を5週間追跡した。その結果として、BRSがIII~IVと低く、介入前に麻痺側の立脚時間が非麻痺側と比較して80%以上低下している症例に関しては麻痺側立脚時間、歩行速度、Cadenceは介入期のほうが向上の勾配が大きかった。しかし、発症から6ヶ月以上経過した維持期の症例を対象にしたことから、BRSの変化は見られなかった。歩行レベルに関してもFIM移動項目で示される変化は見られなかった。 これらのことから、非麻痺側膝関節を固定した状態での歩行練習は、歩行速度や麻痺側立脚時間の増加など歩行パラメーターの改善には寄与することが明らかとなった。今後は急性期、回復期の症例に対しても実施し、回復の推移を検討していく必要がある。
|