研究実績の概要 |
本研究では,経頭蓋直流電気刺激(tDCS)が高次脳機能障害者の注意機能及び自動車運転能力を改善するかを明らかにする目的で無作為化臨床試験(RCT)を実施する計画である.3年間でのべ10名が参加し,同一患者は6ヶ月以上期間をあけて参加した.7日間,1回20分,2mAのAnodal tDCS(A)群が6名,1回15秒,200μAのSham(S)群が4名であった.評価項目はTrail making test(TMT),標準注意検査法(CAT)のSDMT,CPT,Rey-Osterriethの複雑図形(ROCF),UFOV,簡易自動車運転シミュレーター(SiDS)とした.結果は,両群間で介入前は全評価項目に有意差はなかったが,介入後はTMT-B,SDMTで有意差を認めた.介入前後の比較では,TMT-BがA群で有意に改善する傾向を示し,SDMTがA群で有意に成績が低下する結果であった.変化割合=(介入後の値-介入前の値)/介入前の値は,同様に両群間でTMT-BとSDMTで有意差を示した.その他の項目は,SiDSの危険車間率の変化割合が両群間で有意差を示しS群で成績が改善した.過去の報告では,健常者の注意機能やワーキングメモリの研究において,前頭葉のtDCS刺激で,左は言語的な課題,右は視覚的な課題で効果を示す報告が散見される.脳障害者では本研究と同様の左前頭前野のtDCS刺激で,視覚性・言語性の注意・ワーキングメモリ課題が改善した報告があり,今回のTMT-Bの改善を示した結果と合致する.一方で,視覚性の注意・ワーキングメモリ課題であるSDMTはA群でS群より効果を示さなかったが,これは左Anodalや右Cathodalによる右前頭葉機能の抑制による可能性が示唆された.今回の結果からは,tDCSが自動車運転能力まで影響を示す結果に乏しかった.
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