ニセルゴリンは脳梗塞後遺症患者の脳循環代謝改善目的で投与され,意欲改善効果が期待されているがその機序は明らかでない。そこでニセルゴリンが抗うつ薬の標的蛋白であるモノアミントランスポーターに及ぼす影響を検討した.培養細胞を用いた検討については,初代培養副腎髄質細胞(ウシ副腎髄質細胞)およびヒト神経芽細胞種由来のSK-N-SH細胞にて,ニセルゴリンがノルエピネフリントランスポーター(NET)機能を臨床濃度で有意に抑制し,さらに濃度依存的に抑制することを明らかにした.またアフリカミドリザルの腎細胞由来のCOS-7細胞にセロトニントランスポーター(SERT)cDNAを導入したものを用いたニセルゴリンの作用の検討では,臨床濃度では抑制効果を認めなかった.SK-N-SH細胞におけるNET機能の抑制機序の検討では,親和性(Km)は変化させずに最大取り込み能(Vmax)を減少させており,また結合実験では解離定数を変化させずに最大結合能(Bmax)を減少させた.また細胞表面のNETをビオチンで標識してニセルゴリンを反応させると,細胞表面のビオチン化させたNETが減少する傾向にあった.以上より,ニセルゴリンは濃度依存的・非競合的にNET機能を抑制し,セロトニン取り込み機能には影響しないことが明らかとなった. またマウスを用いたニセルゴリンの抗うつ作用の評価については,Jcl-ICR系雄性マウスにニセルゴリンを腹腔内に投与し,抗うつ薬の薬効評価の行動実験である矯正水泳テストを施行すると,無働時間の平均時間が短縮される傾向にあったが,有意差は認められなかった.ニセルゴリンの効能の1つとして意欲低下(アパシー)に対する改善効果が挙げられている.これに対する薬理学的作用については今まで報告がないが,抗うつ薬の標的であるNET機能を抑制することにより発揮されている可能性が考えられた.
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