本研究では,中枢性の神経疾患において生じる症候である「痙縮」を減弱し患者の身体動作を改善することを視野に,まず,昨年度において,超音波画像上の速度ベクトル(オプティカルフロー)を用い筋形状をリアルタイムに算出するシステムを作成し,今年度はそのシステムを用いた筋形状計測に基づき痙縮の評価指標を導出した。具体的には,医師により痙縮ありと診断された脊髄損傷者(n=14,損傷部位:C6-T12,MAS:0-2)を対象に動力計による足関節の他動的背屈課題(5°/s,20°範囲)を行い,その際の腓腹筋内側頭の画像データ(総計112試行)から表面筋電図を基に不随意の筋収縮が確認された試行(n=1,3試行)を抽出し,オフラインにて筋形状指標(筋束長の変化幅,軌跡長)の算出を実施した。その結果,抽出した試行における筋束長の変化幅および軌跡長は,同一被験者におけるその他の試行と比較し,それぞれ低値(8%)および高値(15%)を示した。これは,超音波法による筋形状計測から「痙縮」により生じる不随意の筋活動の徴候を捉えることができることを示唆する。この手法は,表面筋電図法など他の計測法による「痙縮」の徴候の評価が困難な局面(例えば,FES等による複数筋の電気刺激中など)における症状のモニタリングを可能にすると考えられ,今後,被験者数を増やし上記結果の統計的有意差を確認するとともに,より実動作に近いリハビリテーション課題(FESアシストを伴う歩行動作など)における「痙縮」の症状をリアルタイムに観察可能か検証していきたい。
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