本研究の目的は、視覚障害者の日常生活動作(特に机上動作・歩行)と頸部の動きの関係を症状のタイプ別に調べ、頸部に負担のかかる動作を検討し、対策を考察することである。具体的には、読む・書くなどの机上動作時や歩行時に頸にかかる負担を調べるため、頸部の角度、角速度、傾斜角、筋電位、筋力、目と文字の距離などを測定した。机上動作については、1)視覚保障機器なし、2)拡大読書器使用、3)ノートPC操作、4)デスクトップPC操作、5)タブレット端末使用、6)携帯電話使用の6つの環境を設定し、書字・読字・マウス操作などの作業時の頚部の状態を測定した。また対象者の基礎情報(視覚障害の種類や程度、筋骨格系の痛みの有無など)を自記式質問紙にて調査した。これらの結果を視覚障害のタイプ別(視力・視野障害)に2群に分け比較した。その結果、視覚障害者の60%以上の人に筋骨格系の痛みが見られた。視野障害群では多くの作業で視力が低いほど有意に目と文字の距離が近づき、頭頚部が前傾姿勢となる傾向が見られたが、視力障害群では視力の程度と距離や傾斜角との間にあまり関連を認めなかった。その他、自覚的な姿勢のしづらさと視力との間の関係については、あまり関係はみられなかった。 本研究の課題と限界について、今回は弱視者を視野50%欠損の有無で2群に分けて比較を行ったが、様々な病態を呈する視覚障害者を2群に分けることは困難であったため、今後は群分けをせず、痛みや視覚障害の程度、肢位との関係についての要因を分析する必要がある。また本研究はサンプルサイズが小さい横断研究である。今後の展望として、本研究により視覚障害者の頚部負担の予測、痛みへの対策や適切な視覚補助具等を検討するための基礎資料を得ることができる。 本研究の一部を第16回日本ロービジョン学会学術総会にて報告した。今後論文投稿を予定している。
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