研究課題/領域番号 |
24700588
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
藪 謙一郎 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特任研究員 (50626215)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 音声合成 / 言語障害 / ホルマント / タッチパネル |
研究概要 |
発話障害者のための従来型の音声支援機器の多くは、ボタン入力による文字列や単語を音声に変換する技術が基礎となっている。この方式の場合、入力に要する時間のために話始めに遅れが生じる問題、自由なリズムをつけたりすることができない問題、曖昧音を表現できないという問題がある。 本課題では、タッチパネルやペンタブレットの操作盤面上に配置された母音記号を目印として、盤面上を連続的になぞることによってリアルタイムにアナログ楽器のような感覚でお音声を合成できる音声生成器を扱っている。これは、健常者における指やペンの動きを、健常話者における構音器官の動きに見立てて発想したものであり、ノンバーバルな情報も含められる新しい方式として有用と考えている。 研究計画においては、より明瞭な音声を生成可能にするための、パラメータ変換手法の改良と、センシング部分の大きさや形状の改良を行い、そのうえで、当事者による試作機の評価を通じてその有用性と問題点を明確にするとともに、健常者のユーザにおいても、本装置を楽器として利用したときにどのような新しい音楽表現が生まれるかを予測することを目標とした。 当該年度は特に、操作盤面上を操作する際の入力速度限界や、聴取の特性の基礎調査を目的とする、動作端末の検討と実験機器の準備を行った。この際、当該年度後半に発売されたWindows8端末を用いるのが特に妥当と判断されたため、次年度に行う予定であった音楽表現についてを先に検討し、実験用ソフトウェアへ実装し動作させるに至った。またiPhone端末の開発についても並行して進められ、4月時点でリリースに至っており、今後の評価実験へと繋げる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
計画当初、実験用端末として使用する予定であったWindows7小型汎用タブレットPC上で動作実験を行ったところ、開発中の音声生成ソフトウェアの動作に、音の途切れや反応の遅れが見られた。この解決のために、実験用端末の機種としてもう一段階上の性能が求められるとと判断し、機種の再選定を行った。本課題では、機種の性能だけでなく携帯性も求められるため、タッチパネルによるタブレット端末への応用に主眼が置かれたWindow8の発売を待ち、適切と思われる機種を購入した。当初の予定よりも発売時期が遅れたため、購入にも遅れが生じた。その間、後半に予定していた実験用器材の手配や音声生成器による音楽表現に関するソフトウェア開発を進めた。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度には実験端末上でのソフトウェア動作の不具合により、実験遂行に遅れが生じた。次年度はまずこの実験を行う。具体的には、ヒトのペンや指の移動速度や移動速度、位置決めの限界を知るための基礎実験を行い、適切な入力インタフェースのサイズを求める。また動的な補助線の導入を検討する。さらに発話音声の分析結果と照合し、必要な場合には、ポイント位置と音声生成パラメータと間のマッピングのアルゴリズムの変更を検討する。それに対応した操作方法習得のための手順を考案し整理する。 例えば現在までの方法では子音らしい音を生成するためには指やペンを高速に移動させる必要があり、初心者がゆっくりした音声を生成させようとすると子音らしい音を再現できなくなる問題があった。そのため動的に速度を補うようなアルゴリズムを加えることが必要と考えている。 これらを踏まえた上で、改良入力インタフェースで数十個の単語の生成・聴取実験を行い、生成可能な音声の明瞭さ度合いや、操作方法の習得の速さなど調査し、課題や解決策を整理していく。一方で、昨年度の成果を通じてリリースされたiPhoneアプリ端末を用いて、実際に障害を持ったかたに使用してもらいながら、日常生活においてノンバーバル情報がどのような場面で活かされるかを具体的な場面を想定して考察する。その際、障害の重症度に応じて、単語の生成だけにとどまらない音声コミュニケーションについて考慮する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本課題ではソフトウェアの試作と、適切な入力インタフェースの選定や試作を行いながら、問題点を明確にしてまた改良・試作するということを繰り返すということが研究の主体となるため、ソフトウェア開発環境の整備やタブレット端末、付属装置製作のための電子部品・機械部品、PC周辺機器、音声入出力機器などが経費のおもな使途となる。 試作器は、携帯型端末機器として容易に持ち運べるようにし、筋・神経系に疾患のある患者にも家庭に持ち帰って自由に使ってもらうことを考慮し、複数台用意する予定である。そのため、見積もりでは機器購入費の割合が高めになっている。実験に協力して頂いた健常者や筋・神経系患者を含む被験者への謝礼粗品に必要な費用も見積もっている。 これらには、試作器の動作の不具合によって生じた遅れの影響で、昨年度行なうことができなかった実験を次年度の前半で行う予定が含まれており、その費用も含んでいる。したがって、そのための繰越金が生じている。また、その成果発表に必要な旅費や論文作成のための費用、印刷費用等も含んでいる。 また、iPhone用ソフトの開発にも関わっている研究協力者の担当者が北海道いるため、打ち合わせのために複数回の往復の旅費がかかるため、旅費として費用を見積もっている。 代表者は、発話障害と身体障害を持つため、宿泊を伴う成果発表のためには補助員の付き添いが必要となり、1回につき2人分の旅費を見積もっている。
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