研究課題/領域番号 |
24700588
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
藪 謙一郎 東京大学, 先端科学技術研究センター, 研究員 (50626215)
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キーワード | 音声合成 / 言語障害 / ホルマント / タッチパネル |
研究概要 |
従来型の発話障害者のための音声支援機器の多くは、文字の入力や絵による単語入力から音声に変換する。しかし、漢字変換や絵の探索に要する入力時間のために、話し出しに遅れが生じる問題や、自由なリズムをつけたりすることができない問題、曖昧音を表現できないという問題がある。 本課題では、タッチパネルやペンタブレットの操作盤面上に配置された母音記号を目印として、盤面上を連続的になぞることによってリアルタイムにアナログ楽器のような感覚で音声を合成できる音声生成器を扱っている。これは、健常者における指やペンの動きを、健常話者における構音器官の動きに見立てて発想したものであり、ノンバーバルな情報も含められる新しい方式として有用と考えている。 研究計画においては、より明瞭な音声を生成可能にするための、パラメータ変換手法の改良と、センシング部分の大きさや形状の改良を行い、そのうえで、当事者による試作機の評価を通じてその有用性と問題点を明確にするとともに、健常者のユーザにおいても、本 装置を楽器として利用したときにどのような新しい音楽表現が生まれるかを予測することを目標とした。 平成24年度には端末の不具合により音の途切れ等が発生し、研究に遅れが生じたが、平成25年度には、タッチパネル操作をメインとするWindows8端末を使用し、問題を解消することができた。平成25年4月には、本研究の方式のスマートフォン向け音声生成アプリがリリースされ、動作確認等を行った。両者の動作状況から、子音らしい音を生成するためには指やペンを高速に移動させる必要があり、初心者によるゆっくりした操作では、音声を生成させようとすると子音らしい音の再現が難しいといった課題が確認された。そのため、動的に速度を補うようなアルゴリズムを加えることが必要と判断し、そのアルゴリズムの一部をPC上で実装し、音が改善されることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
平成24年度、計画当初に使用を予定していたWindows7小型汎用タブレットPC上で動作実験を行ったところ、開発中のソフトウェアに反応の遅延や音の途切れが発生した。そのため、ユーザ・インタフェースに関する実験は、タッチパネルによるタブレット端末への応用に最適化されたWindows8機の発売を待つことが必要と判断した。端末の発売時期の遅れの影響もあり、開発環境の整備にも影響し、システム開発、修正、実験準備と成果発表が順に遅れている。 一方、後半に予定していた音楽表現への応用については、旧機種での改良をすすめ、平成24年度に一定の成果を得た。 新機種の端末入手後の平成25年度には、子音らしい音をより明瞭に再現できるようにするため、使用者の操作盤面上のなぞり操作の速度を補完する手法について、提案と実装実験を行なった。具体的には、操作盤面上を一定速度以上でなぞった場合に、入力座標の遷移時間の遅延と短縮を行い、子音開始部分のホルマント遷移の部分の速度を補完する方法を提案した。実装実験から生成音が明瞭化することが示唆されたが、引き続き改良を進めていくと同時に、単語の知覚や操作速度に関する実験が必要であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度までに、音楽表現や子音らしい音を生成するために速度を補う方法について、一定の筋道をつけたと考えており、平成26年度には具体的な速度の閾値などについての残された課題を検討する予定である。ヒトが操作盤面をペンや指でなぞる時の移動速度や位置決めの限界を調べるための基礎実験を行い、無理なく入力できる速度や操作盤面のサイズについて考察する。これらを踏まえた上で、前述の速度の補完についての動作改良を行い、改良した入力インタフェースで数十個の単語の生成・聴取実験を行い、生成可能な音声の明瞭さ度合いや、操作方法の習得の速さなどを調べ、課題や解決策を整理する。 また、初心者の練習に使用できるような、補助記号や動的な動線について提案しながら、訓練手順について検討する。 一方で、実用上の実験として、昨年度にリリースされたiPhoneアプリ端末を用いて、実際に障害を持ったかたに使用してもらいながら、日常生活においてノンバーバル情報がどのような場面で活かされるかを具体的な場面を想定して考察する。その際、障害の重症度に応じて、単語の生成だけにとどまらない音声コミュニケーション方法についても考慮に入れて、考察をすすめていく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
計画当初に実験用端末とする予定であったWindows7小型汎用タブレットPC上で動作実験を行ったところ、開発中のソフトウェアの動作に反応の遅れや音の途切れが見られた。そのため、入力インタフェースに関わる実験を、タッチパネルによるタブレット端末への応用に向いた、Windows8の機の発売まで待つ必要があると判断した。発売時期の遅れもあり、開発環境の整備にも影響し、システム開発・修正・実験準備と成果発表が順に遅れている。そのため、期間延長申請を行い、未使用額が生じている。 実験に用いるモバイル端末機器、PC周辺機器、音声入出力機器などが経費の主な使途となる。特に、携帯型端末機器は容易に持ち運べるようなものを、金・神経系に疾患のある患者にも家庭に持ち帰って自由に使ってもらうことを考慮し、試用比較の上、複数台用意する予定である。その他、実験参加者への謝金、打ち合わせ費用、成果発表のための旅費・印刷費用等を見込んでいる。
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