前年度は、健常腕と義手の両腕協調動作を力学的に模擬するリアルタイムモーションシミュレータの基礎部分を構築した。シミュレータを構成する各プログラムの処理のタイミングを計測し、設計通りに動作しているか検証した。その結果、平均1/60秒ごとに計算が行われていることを確認した。 本年度は、構築したリアルタイムモーションシミュレータに対し、両手でトレイを持ち上げる作業のシミュレーションを行うための機能を追加し、構築したシミュレータ上で被験者による作業実験を行った。 手とトレイの間に作用する力を計算するために、オープンソースのライブラリであるBullet Physics Libraryを用いた。リアルタイム処理を保つために、指先、トレイ、テーブル間の接触のみを考慮し、計算のモデルを簡素化した。 構築したリアルタイムモーションシミュレータを用いて、トレイ持ち上げ作業の評価実験を行った。被験者はモニタを見ながら腕を動かし、トレイの持ち上げを試みる。そのとき、モニタ上に両腕とトレイの三次元グラフィクスモデルが表示されており、被験者の腕の動きに合わせて、モニタ上のモデルが動く。実験の結果、トレイの質量、指先とトレイの間の摩擦係数を変えることにより、作業の成功率が大きく変化することが確認された。特に、摩擦係数を小さくして、指先が滑りやすい状況下では、トレイが落下しやすくなる。その際に、トレイを落とさないように被験者が指先を動かす動作を観測することができた。 本研究で構築したリアルタイムモーションシミュレータを利用することにより、実際に義手を製作する前に、様々な条件下において被験者が作業しているときの動作生成システムや制御システムなどを含む義手の性能を評価することが可能になった。
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