研究課題/領域番号 |
24700606
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
柚木 孝敬 北海道大学, 教育学研究科(研究院), 准教授 (00352500)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 運動 / 呼吸調節 / 行動性呼吸 |
研究概要 |
高強度運動(intense exercise, IE)時に生じる過呼吸は、pHの低下を抑えるための生理的反応であり、自動調節系によって無意識的・反射的に制御されているとされる。しかし申請者は最近、筋グリコーゲンの枯渇を段階的に進めるプロトコル(「段階的筋グリコーゲン枯渇プロトコル」)を用いることで新知見を得ている。すなわち、中強度長時間運動を間に挟みながらIEを複数回繰り返すと、IE開始前の筋グリコーゲン量が段階的に減少するため、IEに伴う乳酸生成が低下し、結果として、血液pHの低下も段階的に抑制される。従来的な考えでは、血液pHの低下が抑制されることに伴い、過呼吸も抑制されることになる。しかしながら、過呼吸はIEの反復に伴ってむしろ徐々に増強されること、そしてその増強が脚の努力感の増加と密接に関係していることが確認され、さらには、活動肢で測定された筋電図活動の積分値(iEMG)はIEの反復に伴って徐々に低下する一方で平均周波数(MPF)は増加することが示された(EJAP, 2012)。これらの結果は、1)IE時の過呼吸には血液pHの低下よりむしろ努力感が強く関与すること、2)努力感に依存した過呼吸には必ずしも活動肢に対するセントラルモーターコマンドを必要としないこと、3)努力感依存性の過呼吸には速筋線維の動員増が関与している可能性があること、を示唆するものであった。 当該年度の研究では、「段階的筋グリコーゲン枯渇プロトコル」において、糖質補給によって筋グリコーゲン枯渇を抑える実験を行なった。糖質補給の結果、IEの反復に伴って、iEMGは低下する傾向を示したが、MPF、努力感、過呼吸は変化しなかった。これらの結果は、IE時の過呼吸は努力感に関連しており、その努力感の生成に速筋線維の動員が関与している可能性を強化するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、先行研究(Yamanaka and Yunoki et al. 2012)において示唆された努力感と過呼吸の関係性をさらに直接的かつ明確に検証し、高強度運動時における努力感の生成が過呼吸(呼吸性のpH恒常性維持作用)を発現させる全体像を解明することを目的としている。具体的な検討項目は、(1)努力感の増加と一次運動野興奮性との関係、(2)筋線維動員の操作が努力感および過呼吸に及ぼす影響、(3)努力感の操作が過呼吸および一次運動野興奮性に及ぼす影響、の3つである。 現時点においては、上記検討項目の(2)は完了し、2013年の国際学会において発表する予定となっている。検討項目の(1)および(3)については、経頭蓋磁気刺激法(TMS)を用いた実験を現在進行中であり、おおむね予定通りに進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、高強度運動時における努力感の生成が過呼吸(呼吸性のpH恒常性維持作用)を発現させる全体像を解明することを目的としている。具体的な検討項目は、(1)努力感の増加と一次運動野興奮性との関係、(2)筋線維動員の操作が努力感および過呼吸に及ぼす影響、(3)努力感の操作が過呼吸および一次運動野興奮性に及ぼす影響、の3つである。今後(最終年度)は以下の2つの実験を完了させる計画である。 <実験1>努力感の増加と一次運動野興奮性の関係 「段階的筋グリコーゲン枯渇プロトコル」における複数回の高強度運動時の筋電図活動を一致させた時に、1)活動筋を支配する一次運動野の興奮性が段階的に低下していくか否か、2)努力感と呼吸量が段階的に増大していくか否か、を経頭蓋磁気刺激法(TMS)を用いて検討する。 <実験2>努力感の操作が過呼吸および一次運動野興奮性に及ぼす影響 当初は薬剤(アセトアミノフェン)投与によって努力感を操作する予定であった。この方法は安全上問題がないことが先行研究によって報告されている。しかし本研究においては、被験者の安全を考慮し、発揮筋力の変化に伴う努力感の変化と一次運動野興奮性の関係および呼吸量との関係を検討することによって、本研究の目的を達成する(実験方法の変更)。
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次年度の研究費の使用計画 |
年度をまたいで実験が進行している。次年度使用額(39,461)はこの実験の被験者謝金に充てる計画である。
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