研究概要 |
申請者は先行研究において、高強度運動時の過呼吸が筋グリコーゲン(筋G)の減少に伴って増加すること、そして、この増加はアシドーシスではなく脚努力感の増加に依存することを報告した(Eur J Appl Physiol, 2012)。本研究は、この高強度運動時における努力感依存性過呼吸のメカニズムを探ることを目的とした。平成24年度は、筋Gの減少を糖質補給によって回避すると、脚努力感と過呼吸の増加が抑制されることを確認した(実験1)。また、筋G減少時にはセントラルモーターコマンド(CMC)の指標とされる積分筋電図(iEMG)が低下したが、筋G減少の回避によってiEMGの低下が抑制されることも確認した(平成25年度、The 18th Annual Congress of the European College of Sport Scienceにて発表)。すなわち、努力感増加時には脚筋へのCMCが低下し、努力感増加の抑制時にはCMCの低下が抑制される可能性が示唆された。これは同時に、努力感依存性過呼吸に一次運動野興奮性の低下が関与している可能性を示唆する。平成25年度は、経頭蓋磁気刺激法を用いて、努力感依存性過呼吸と運動皮質興奮性の関連を探る実験を実施した(実験2)。現在データ分析を進めており、実験1と実験2の結果を1本の論文にまとめて投稿する予定である。実験1&2の結果は、上述した可能性に加えて、高強度運動時の過呼吸が化学性因子とは独立的に生じる現象であり、必ずしも体液恒常性維持(ホメオスタシス)だけのために生じているのではないことを示唆している。実験3(平成25年度)では、呼吸努力を伴う呼吸活動の増加が、下肢筋の皮質脊髄路興奮性を高めることを示す結果が得られた(平成25年度、第69回日本生理人類学会大会にて発表)。高強度運動時の過呼吸は、呼吸循環系とは異なるメカニズムで四肢筋活動をサポートしているのかもしれない。これに関する検討は今後の課題である。
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