研究課題/領域番号 |
24700609
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
石川 淳子 山口大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (30570808)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 幼少期運動 / 前頭前野 / 扁桃体 / 幼少期ストレス |
研究概要 |
本研究は、幼少期ストレスである早期離乳によって誘発される『ストレス対処能力低下』は、幼少期に運動をすることで阻止できることを行動学的に証明すること、さらに、そのメカニズム解明のために、「前頭前野と扁桃体の連携機能」を、組織、細胞、神経活動レベルで検証することを目的とする。本年度は、研究計画書に従い、Sprague-Dawley ラットを用いて、正常離乳群、早期離乳群(EW)、早期離乳後に回転式ランニングホイールによる自発運動をさせる群(EW+EX)を作製し、3群におけるストレス対処能力の行動学的評価と扁桃体の形態学的評価を行った。行動評価では、生後9週齢で回避不可能な電気ショックを与えた後に、オープンフィールド、高架式十字迷路、学習性無欲テストの評価を行った。オープンフィールドテストでは、EW+EX群には中心部における活動量増加が認められた。高架式十字迷路テストでは、3群間における不安行動の強さに差はなかった。学習性無力試験では、正常離乳群に比べてEW群における電気ショック回避行動の減少が認められたが、EW+EX群では認められなかった。また、ニッスル染色・ゴルジ染色による扁桃体の容積・神経細胞の形態解析を行ったが、現在までのところ3群間に差は認められていない。以上の実験結果より、早期離乳後に運動を行うと、早期離乳によるストレス後の学習性無力の増加が起きないこと、また、オープンフィールドにおける不安が減少することが明らかとなった。24年度の実験で、幼少期運動が幼少期ストレスによるストレス対処能力低下の阻止に効果的であることが検証できた。今後、この実験モデルを用いて幼少期ストレスとそれに対する幼少期運動効果のメカニズムを解明することで、うつ病等の精神疾患発症の阻止・治療法の開発・確立への貢献が期待できるため、学術的意義が非常に高い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24 年度は、幼少期ストレスである早期離乳によって誘発される『ストレス対処能力低下』は、幼少期に運動をすることで阻止できるという仮説を検証するために、早期離乳動物、早期離乳と同時に自発運動をさせる動物、正常離乳動物に対して、ストレスを与えた後の不安・恐怖・うつ様行動の増強を評価することが課題であった。平成24年度の実験において、早期離乳後に運動を行うと、早期離乳によるストレス後の学習性無力の増加が起きないこと、オープンフィールドにおける不安が減少することを明らかにし、幼少期運動が幼少期ストレスによるストレス対処能力低下の阻止に効果的であることが検証できた。一方、幼少期ストレスとそれに対する幼少期運動効果のメカニズムを解明するため、扁桃体の発達の形態学的評価を試みているが、現在までのところ、3群間での差は検出されていない。また、抗BDNF抗体を用いた免疫染色による扁桃体BDNF陽性細胞の算出を試みているが、現在までのところ良好な染色性が得られていないため、染色プロトコルの改良と良い抗体を探すという課題ができた。以上より、平成24年度は、扁桃体における形態学的変化は検出されなかったものの、幼少期運動の効果を行動学的に立証し実験モデルを確立するという重要課題を達成することができたため、当研究はおおむね順調に進展しているといえる。今後は、この実験モデルを用いて、ストレス対処能力に重要な役割を担うと推測される前頭前野と扁桃体の連携機能を評価する。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度の実験で、幼少期ストレスはストレス対処能力を低下させ、幼少期運動にはそれに対する阻止効果があることが明らかとなった。今後は、これらの実験モデルを用いてストレス対処能力の脳内メカニズムを検証するため、情動の制御と発動に関わる「前頭前野」と「扁桃体」のストレス応答機能と「前頭前野-扁桃体」間神経投射の連携機能を検証する。平成25 年度は、ストレス負荷による前頭前野・扁桃体における神経活動を評価するため、新奇環境ストレス、電気ショックストレス、電気ショックを受けた場所への再暴露による神経活動興奮マーカー(c-Fos タンパク質)の発現と神経活動の評価を行う。また、「前頭前野に投射する扁桃体ニューロン」と「扁桃体に投射する前頭前野ニューロン」に限定して、c-Fos タンパク質発現を解析するため、前頭前野に逆行性トレーサーであるコレラトキシンB を注入して標識される扁桃体ニューロンと、扁桃体に逆行性トレーサーを注入して標識される前頭前野ニューロンについて、c-Fos タンパク質発現を調べる。次に 前頭前野-扁桃体間の神経投射の機能を調べるため、in vivo 電気生理学的手法で、前頭前野の電気刺激に対する扁桃体ニューロンと、扁桃体の電気刺激に対する前頭前野ニューロンの興奮性・抑制性応答を調べる。解析は、全記録細胞のうち、興奮性・抑制性応答を示す細胞の割合、興奮性・抑制性応答を示すための閾値、興奮性・抑制性応答の潜時を群間で比較する。また、前頭前野から扁桃体、扁桃体から前頭前野への活動電位の伝導速度に各群で違いがないかも調べる。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は行動実験が非常に順調で、最小限の動物使用で期待する実験成果が得られたため、動物や行動実験にかかる費用が削減できた。また、学会に参加する予定であったが参加を見送ったために、当初計上していた学会参加費を使用しなかった。一方、抗BDNF抗体を用いた免疫染色実験では、良好な染色性がえられなかったため、複数の抗体を検討する必要がある。このため、25年度は新たに複数の抗体を購入して染色を確認する予定にしている(約6万円×2~3)。また、正常離乳群、早期離乳群、早期離乳後に回転式ランニングホイールによる自発運動をさせる群を作製するため、動物・動物飼育費用が必要となる。本研究では、交配による妊娠ラット作製から行うため、交配用オス・メスラットの通年の常備が必要であり、さらに、産まれてきた実験用動物(年間約120匹)は生後約10週齢まで飼育するため、年間約40万円の動物・動物飼育経費が積算される。(交配用雄・雌ラットは1匹あたり各約3000円・2000円であり、飼育料は1日1ケージあたり約45円である。 組織学的実験では、抗c-fos抗体を用いた免疫染色を行うための抗体とトレーサー(1次抗体は約6万円(×2)、トレーサー(コレラトキシンB)は約8万円)、免疫染色のための試薬一式と手術器具一式で約40万円の費用が積算される。電気生理実験で用いる記録電極には、神経活動記録の効率化を図る目的でマイクロドライブ付加の可動式電極(約4万円(×15~20))を使用するため、電気生理実験のための電極と関連物品費用として約80万円が積算される。さらに、成果発表のための論文投稿・英文校正、成果発表・情報収集のための学会参加も予定している。平成24年度の未使用額については、BDNF免疫染色のための試薬と電気生理実験のための実験器具の購入、日本神経科学大会の参加費用に充てる。
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