研究課題
本研究では片手の筋において筋損傷を受けた際の両手同時運動の運動制御機構について明らかにすることを目的にしている。昨年度は、片手に伸張性運動(ECC)による筋損傷を引き起こした際の、両手同時による最大随意筋力発揮(MVC)について調べ、片手に筋損傷がある場合は、損傷側のみでなく健側の発揮筋力も低下して、両側性機能低下が有意に亢進することを明らかにした。また、経頭蓋直流電気刺激を用いて両側の皮質運動野の興奮性を変化させた際には、半球間抑制も皮質運動野の興奮性の変化と同調して有意に変化したことを明らかにし、両手運動における半球間抑制の関与の可能性を示唆した。そこで本年度は、昨年度の研究結果より、伸張性運動による片手の筋損傷が両手同時力発揮中の半球間抑制を中心とした運動制御機構について検討した。昨年度と同様に左手の示指内転におけるECCを行い、その運動前および2時間後に、片手(健側および損傷側)での精密把持におけるMVC中に同側の皮質運動野に経頭蓋磁気刺激(安静時閾値の1.3倍の刺激強度)を与えて、刺激の約50ms後付近に第一背側骨間筋(FDI)で生じる同側皮質運動野刺激誘発性の筋電図消失期間(iSP)の誘発を行った。iSPはTMSをトリガーとして全波整流したFDIの表面筋電図を加算平均し、刺激の約50ms後に現れる抑制成分(振幅およびピーク時間)を解析した。iSPの振幅は、両手ともに有意な変化は認められなかったが、損傷側で小さくなる傾向があった。このことより、片手の筋損傷後に損傷側のMVC中に健側の皮質運動野から脳梁を介した半球間抑制が減弱される可能性が示唆された。以上より、片手に筋損傷がある時には、皮質運動野の興奮性および半球間抑制が修飾され、その結果として両手同時運動中の両側性機能低下が亢進する可能性が示唆された。
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