暑熱環境下における長時間運動時の静脈コンプライアンス特性を明らかにするために,常温下および暑熱下運動時において,深在性静脈と表在性静脈の血管コンプライアンスの変化を検討した.具体的な方法および得られた結果は下記のとおりである. 健康な若年男性9名は常温下(25℃)および暑熱下(35℃)において深部体温が約1.2℃上昇するまで自転車運動を実施した.安静時,運動初期および運動継続時の静脈コンプライアンスを超音波法で測定した.いずれの環境条件でも直腸温は運動継続によって1.2℃上昇した.平均皮膚温は,暑熱条件で常に2.5℃高い状態であった.平均血圧と一回拍出量は,常温条件では運動初期に増大し,その増大が運動継続によっても維持されたが,暑熱条件では運動継続により安静値まで戻る変化を示した.心拍数は運動継続により増大し,その増大程度は暑熱条件で大きかった.暑熱条件において,深在性静脈コンプライアンスは運動継続により低下したが,表在性静脈コンプライアンスは運動による影響を受けなかった.一方,常温条件において,いずれの静脈も運動継続により血管コンプライアンスが低下した.長時間運動に伴う非活動肢の静脈コンプライアンス低下は,暑熱下では筋層の,常温下では筋層と皮膚層の応答に起因することが明らかとなった.この結果は,暑熱下運動時における皮膚層の静脈コンプライアンス低下の抑制が,心臓への血液還流量減少の要因のひとつとなりうることを示唆している. 一連の研究を通して,筋層由来の静脈血管応答は常温環境下および暑熱環境下とも循環調節を優先するが,皮膚層由来の静脈血管応答は常温環境下では循環調節を,暑熱環境下では体温調節を優先する可能性が示唆された.
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