研究課題/領域番号 |
24700653
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研究機関 | 名桜大学 |
研究代表者 |
石橋 千征 名桜大学, 健康科学部, 助教 (30609962)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 運動制御 / 知覚 |
研究概要 |
本研究の目的は、集団スポーツ競技であるバスケットボールのリバウンド行為(標的到達行為)を対象に、集団における熟練選手の行為システムをモデリングし、知覚システムとの関係を可視化することである。集団スポーツ競技は時間的・空間的な制約だけではなく、競技のルールやチーム戦略などの制約が常に存在するため、ヒトの高次な行為を検討するのに適している。平成24年度は、実際のバスケットボールゲーム中においてリバウンド行為が行われた局面に注目し、コート上における熟練選手をボールの動きに基づいて、リバウンド行為を制御する変数の抽出を試みた。そこでまず、バスケットボールのリバウンド状況における熟練者の視覚探索活動を実験的に計測し検討した。男性熟練バスケットボール選手を用いて、3 種の戦術が異なる3 対3プレイパターン状況下を設定し、マークマンに対してボックスアウトをする(抑える)ことを課題とした。その結果、熟練者はほとんどシューターを視野に入れずに、シューターがシュートする前にマークマンに対して迅速にボックスアウトをしていた。熟練者の注視活動は、3 つのプレイパターンによる影響を受けず一定であった。熟練者の視線はシューターではなく、シューターとマークマンの間の空間領域に配置していた。これらの結果は,複雑に変化する戦術下においても、シューターやマークマンの行為を予測するために、熟練者は視支点を置き周辺視を使って情報を迅速にかつ広域に獲得していることを示唆された。また、大学体育会バスケットボール部の協力により、選手とバスケットボールの運動学変量を獲得するために必要十分であろうゲーム数をデジタルビデオ撮影した。以上の結果を用いて、原著論文を一本載録、また国外学会にて発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、集団における熟練選手の行為システムと知覚システムとの関係を可視化することである。平成24年度は、男性熟練バスケットボール選手を用いて、3 種の戦術が異なる3 対3プレイパターン状況における熟練者の視覚探索活動を実験的に計測し検討した。その結果、集団競技において複雑に変化する戦術下での、熟練者の視覚のふるまいを可視化することが出来た。この研究成果を、原著論文一本にまとめ、国外学会にて発表したが、平成24年度では視覚システムと行為システムの関係を可視化するところまでは至っていない。しかし、リバウンド行為を制御するであろう運動学的変数は獲得しているため、次年度では視覚探索活動とそれらの運動学変数の関係を考察することが課題である。また、実際のバスケットボールゲーム中においてリバウンド行為が行われた局面に注目し、コート上における熟練選手をボールの動きに基づいて、リバウンド行為を制御する変数の抽出を試みた。その結果、選手の運動を質的に示す運動の様子(運動パターン)を行動分析により獲得することが出来た。そこで、これらの評価特徴変数をデータベース化し分類することが次年度での課題となる。成果報告の場において、他の同分野の研究者からのアドバイスを受け、上記の課題だけでなく、次年度で改善する予定である様々なデータ、特に運動学変量を簡便に獲得する手法の手がかりをみつけることができ、平成24年度の遅れを次年度では充分に取り戻せる段階にある。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策として、平成24年度の結果を鑑み次の2点を予定している。 一つ目は、実際のゲームを再現した環境下(日本バスケットボール協会公認コート、リング、ボール等)で多人数同時計測し、熟練選手のリバウンド行為の動作パターンを定量的に検証する。熟練選手のリバウンド行為中の眼球運動を計測し、時間的・空間的な制約、競技のルールや戦略などの制約を考慮し、平成24年度で得られた結果と比較することで、リバウンド行為の理解を深める予定である。現段階では、光学式モーションキャプチャシステムを用いて、熟練者の詳細な運動学変量を獲得する予定であるが、計測環境やデータ処理環境を更なる拡充させるための物品の購入も検討している。 二つ目は、実際のバスケットボールゲームを撮影し、更なるデータの拡充を継続することで、データベースの信頼性や、可視化したモデルの妥当性を向上させることを目指す。 平成24年度と同様に研究成果は、適宜公の場(国内・国外学会、原著論文等)で発表する予定である。また、協力して頂く大学体育会バスケットボール部だけではなく、所属大学の地域クラブや学校(高校、中学等)に情報を発信し、アウトリーチ活動を充実させる。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費の使用計画として、主に2つに分けられる。 一つ目が、物品購入費である。次年度も同様に、計測環境の充実のために、物品を購入する必要がある。研究の進捗具合に応じて、光学式モーションキャプチャシステム、または眼球運動計測器のいずれかの物品に絞り購入する予定である。一般的に光学式モーションキャプチャシステムは非常に高価であり、計測プログラムの変更が不可能である。しかし、購入予定であるシステムは安価かつ筆者が計測プログラムを自由に作成することが可能であるため、研究活動を充実させる経費として妥当であると考える。また、眼球運動計測器もまた高価であるが、研究の特徴である多人数同時計測のために複数台必要となる。しかし、これらの物品購入は、更なる計測環境の拡充のためであるため、研究計画に支障をきたすことはない。 二つ目は、成果発表や情報収集に必要な旅費である。次年度は本研究の最終年度にあたるので、2年で得られた研究成果を国内、あるいは国際会議で報告する予定である。本研究は学術的にはもちろん、様々な競技レベルのデータを確保することで、人材発掘のためのスキル判別に応用でき、コーチングの基礎資料として指導現場への貢献度が非常に高いと考えている。質の高いアウトリーチ活動のためにも、これらの経費を計上した。
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